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第6回:行ったことがない所へ、見たことがないものを
(ISASニュース 2004年2月 No.275掲載)
くぼた・たかし。
宇宙探査工学研究系助教授
1960年、埼玉県生まれ。工学博士。東京大学大学院工学系研究科電気工学専攻博士課程修了。専門はロボティクス。1993年、宇宙科学研究所入所。宇宙探査ロボティクス、画像認識・自律システムの研究を行っている。
Q:
現在、火星ではNASAのローバ2機が活躍しています。宇宙探査ロボットの研究者として、どのような思いで見ていますか。
1997年、マーズ・パスファインダのローバ「ソジャーナ」が火星を探査したとき、私はNASAのJPLに客員科学者として滞在していました。ソジャーナが最初に送ってきた画像を見たときは、感動しましたね。今回のローバは、ソジャーナよりも広い範囲を探査するので、どんな画像を送ってくるのかと興味津々で見ています。
一方で、日本もやればできるのになあ、という悔しさもあります。技術的には、日本はNASAに引けを取らないと思います。でも、実績がない。日本は、やっと惑星探査機を送り出せるようになった段階ですからね。
Q:
宇宙研では、どのような宇宙探査ロボットを研究・開発しているのですか。
今、小惑星ITOKAWAに向かっている「はやぶさ」には、私たちが開発した、日本初の宇宙探査ロボット「ミネルバ」が搭載されています。ロボットというと、2本の足や車輪で動くというイメージがありますが、ミネルバは飛び跳ねながら移動します。これは、大学院生から出てきたアイデアです。学生は、自由な発想をしますね。小惑星は重力が小さいので車輪だと浮いてしまって駄目なんだと言うと、じゃあ飛べばいいじゃないかと。突拍子もないものも多いのですが(笑)、本質を突いていることもあります。
最近では、理学系の研究者から惑星の表面で穴を掘りたいと言われ、学生と一緒にモグラロボットを開発しています。掘った土を持ち上げて、その反動で掘り進みます。
Q:
モグラからヒントを得たりするのですか?
モグラがどうやって穴を掘るのか、しっかりと観察することは重要ですね。生物から学ぶことは、たくさんあります。例えば、人間はいろいろな物を持つことができますが、これをロボットにやらせようとしたら大変です。自分はどうして物が持てるのだろう、関節はどうなっているのだろう、どうやって学習しているのだろうと、いろいろ考え、そこから学んでロボットにやらせてみる。ロボットを研究することは、人間の研究にもつながります。
Q:
なぜ宇宙探査ロボットを作るのでしょうか。
行ったことがない所に行きたい。見たことがないものを見たい。好奇心や探究心が宇宙探査ロボットを作る原動力です。
そういう好奇心は、地球上でも同じです。学生時代はテニスばかりしていましたが、今はスキューバダイビングもしています。スカイダイビングもやってみたい。海の中や空からの景色。やっぱり行ったことがない所に行き、見たことがないものを見たいんですね。でも宇宙にはなかなか行けませんから、ロボットに行ってもらい画像を送ってもらう。ロボットは自分の分身です。
Q:
究極の宇宙探査ロボットとは?
「あの岩を調べて」と夕方に命令すると、私たちが寝ている間に調べて、朝にはデータを送ってくれていたらいいですね。完全に自律である必要はありません。人間と会話しながら、われわれの意図を察してうまくやってくれるのが、究極のロボットです。「ここを調べたらどうですか」なんてロボットから提案してくれたら、最高ですよね。
Q:
これからの夢は?
人の役に立つものを作っていきたい。宇宙にこだわってはいません。例えば、災害時に救助を行うレスキューロボットは、宇宙探査ロボットと共通点があります。宇宙の技術を地上へ生かすことも、やりたいですね。抽象的な言葉で言えば、いつもワクワク、感動していたいですね。ロボットを作っているときは、いつもワクワクしています。思った通りに動いたときは、もう感動です。でも、なかなかうまくいかない。あれこれやっていると、時間がたつのを忘れ、終電車を何度逃したことか。
Q:
「ISASニュース」の編集委員や広報委員をされていますが、広報についてどのように考えていますか。
広報は非常に重要です。アメリカにはNASA TVがありますが、宇宙研でテレビ番組を作れたらいいですね。しかも参加型のものがいい。講演会などで「宇宙が大好きなんです。話が面白かった」と子供たちから言われると、うれしいものです。宇宙のことを正しく、分かりやすく伝える機会をもっと増やさなければと思っています。
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