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ISASコラム

宇宙・夢・人

赤外線で宇宙の進化の歴史をひも解きたい

(ISASニュース 2003年12月 No.273掲載)
 
赤外・サブミリ波天文学研究系 中川 貴雄
なかがわ・たかお。
赤外・サブミリ波天文学研究系教授
1960年、岐阜県生まれ。
東京大学大学院理学系研究科天文学専攻博士課程修了。専門は赤外線天体物理学。1990年、宇宙科学研究所入所。赤外線観測により、銀河、星、惑星系の起源を研究するとともに、新しい観測器の開発を行っている。
Q: 赤外線の観測をしているそうですね。
例えば、私たちの目には同じように見える缶コーヒーでも、赤外線で見るとホットは明るく、アイスは暗く見えます。赤外線で観測すると、可視光とは違う情報が得られるのです。可視光では光らない温度の低い天体も観測できます。ところが、赤外線は地上にはほとんど届きません。だから宇宙で観測するのです。現在、日本初の本格的な赤外線天文衛星ASTRO-Fを打ち上げる準備を進めています。
Q: ASTRO-F では、どんな観測をするのですか。
1983年に打ち上げられた世界初の赤外線天文衛星IRASは全天観測を行い、25万個の赤外線天体を見つけました。ASTRO-Fは、IRAS以来となる赤外線による全天観測を行います。天体カタログを作ることが、その最大の目的の一つです。昔のIRASの空間分解能は数分角。視力1.0の人は1分角が見えるので、IRASの視力は私の裸眼と同じ0.2くらい。一方、ASTRO-Fの分解能は1分角より細かく、視力2.0はいけます。ASTRO-Fで1000万個近くの赤外線天体を観測できるはずです。

 ASTRO-Fでは、星が生まれるときに周りを取り囲むちりやガスの雲「原始惑星系円盤」を詳しく観測します。そこでやがて惑星が生まれます。今までの赤外線観測によって原始惑星系円盤が十数個見つかっていますが、ASTRO-Fでは数百のオーダーで見つけられるはずです。

 また、赤外線で強く輝く銀河も観測します。宇宙の初期に最初にできた銀河は、この赤外線銀河と同じようなタイプだと考えられています。赤外線銀河はまだ近くの宇宙でしか観測されていません。ASTRO-Fで遠くの宇宙、初期の宇宙にある赤外線銀河を観測して、銀河がどのようにして誕生し進化したのかを探りたいと思います。

 このように、赤外線で星や惑星、銀河を観測して、宇宙の進化の歴史を見てみたいのです。
Q: ASTRO-Fの次の夢は?
SPICAというミッションを検討しています。SPICAでは、ハッブル宇宙望遠鏡の光学望遠鏡2.4mよりも大きい、3.5mという大口径の赤外線望遠鏡を搭載する予定です。赤外線望遠鏡では、望遠鏡自体から赤外線が出ないように冷やす必要があります。今までの赤外線天文ミッションでは、魔法瓶のような真空断熱容器に液体ヘリウムと望遠鏡を入れて、-270℃に冷却します。でも遠足のとき、魔法瓶は重かったですよね。このような従来の方式で口径3.5mにすると、真空断熱容器が重くなりすぎて打ち上げられません。実は、宇宙に行けば真空なので、重い真空断熱容器は要りません。地上で液体ヘリウムを蒸発させないためだけに必要なのです。そこで、SPICAでは機械式冷凍機で望遠鏡を冷却します。液体ヘリウムは持っていきません。実はASTRO-Fでも液体ヘリウムとともに、機械式冷凍機を赤外線天文衛星として初めて搭載します。機械式冷凍機を搭載するアイデアは私たち独自のもので、世界のライバルたちは、うまくいくかどうか興味津々で見ています。

 SPICAでは、太陽系外の惑星、特に木星のような巨大惑星であれば直接観測できます。太陽系外の惑星はまだ間接的な観測しかなく、直接観測の激しい競争が行われています。そのレースにSPICAも参加します。さらにSPICAの後には、地球のような小さな惑星を直接観測できるJTPFを2010年代後半に実現できたらいいなぁと。惑星の大気に酸素があるか、水が液体で存在できる温度であるかを調べて、生命が存在する証拠を探りたいですね。
Q: 天文学に興味を持ったきっかけは?
1971年、私が小学校5年生のときにも火星大接近がありました。望遠鏡を作り、火星を観察しました。6年生のときからずっと望遠鏡を作り、宇宙を見続けてきた気がしますね。そこに何かありそうだけど、まだ分からない。それを自分で探ってみたい。赤外線観測を選んだのも、未開拓な分野なので何か新しいことができそうだと思ったからです。自分たちで作った装置で誰もやったことのない観測を行い、新しいことが見えてくる。それが最高の喜びです。