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ISASコラム

宇宙・夢・人

”研究所の心”を忘れずに本職の研究者であれ

(ISASニュース 2003年8月 No.269掲載)
 
宇宙科学研究所所長 鶴田 浩一郎
つるだ・こういちうろう。
宇宙科学研究所所長。1937年、佐賀県生まれ。
東京大学大学院理学研究科地球物理専攻博士課程修了。専門は磁気圏地球物理学。1968年、前身の東京大学宇宙航空研究所に入所。オーロラ観測衛星「あけぼの」(1989年)、火星探査機「のぞみ」(1998年)の科学責任者を務める。2003年5月より現職。
Q: 5月に所長に就任されるまでの経緯は、かなり急だったと伺いましたが。
宇宙科学研究所を退官して2年になりますが、カナダのカルガリーでオーロラの観測をしていました。退官したら絶対にやりたいと思っていたのです。「GEOTAIL」や「あけぼの」といった観測衛星で宇宙から見ていたオーロラと、地上で見るオーロラは別物ですね。眺めているだけでも楽しいです。感度をよくするために試行錯誤しながらビデオを改造するのも楽しいものです。うまく撮れると、人に見せびらかしていました。一度帰国して、3月にカナダに戻る準備をしているときに、所長のお話をいただきました。正直、迷いましたね。最終的には、少しでもお役にたてればと思い、お引き受けしました。しかし、いまもカナダには未練があります(笑)。
Q: 宇宙研と航空宇宙技術研究所、宇宙開発事業団の3機関が統合し、10月1日から宇宙航空研究開発機構となります。新機関における宇宙科学研究は、どのような位置付けになるのでしょうか。
新機関の大きな目標の1つが、宇宙科学の推進です。宇宙研は宇宙科学本部(仮称)として、天体観測、太陽系探査、そしてそれを支える工学技術の開発という3本柱で取り組んでいきます。
Q: 3機関統合は、どのような利点が期待できますか。
組織が大きくなりますから、これまで宇宙研だけではできなかった大きな計画も実現できるようになります。例えば現在、宇宙研と宇宙開発事業団との共同ミッションとして月探査計画「セレーネ」(2005年打上げ予定)が進んでいます。これは、アポロ計画以降の月探査としては最大規模の計画です。このような大きな計画を実現できる機会が増えることでしょう。
Q: 宇宙研は、特にX線天文学や太陽物理で世界をリードし、数多くの成果を上げています。それを支えてきた特有の研究体制は、引き継がれるのでしょうか。
宇宙研の大きな特徴は、大学共同利用機関だということです。宇宙研の衛星計画に賛同した研究者が大学や国立研究機関などから集まり、宇宙研の研究者と共同で計画を実現していきます。計画が終了すれば散っていき、次の計画が始まると集まってくる。その繰り返しです。300人ほどの小さな研究所で、多くの衛星計画を運用できるのは、非常に優れたこのシステムのおかげです。このシステムは、新機関でも不可欠です。
Q: 宇宙研は、特にX線天文学や太陽物理で世界をリードし、数多くの成果を上げています。それを支えてきた特有の研究体制は、引き継がれるのでしょうか。
宇宙研の大きな特徴は、大学共同利用機関だということです。宇宙研の衛星計画に賛同した研究者が大学や国立研究機関などから集まり、宇宙研の研究者と共同で計画を実現していきます。計画が終了すれば散っていき、次の計画が始まると集まってくる。その繰り返しです。300人ほどの小さな研究所で、多くの衛星計画を運用できるのは、非常に優れたこのシステムのおかげです。このシステムは、新機関でも不可欠です。

 宇宙研の衛星計画は、研究者が自らテーマを決め、研究者同士が議論をして決定されます。そして研究者が衛星を打ち上げ、観測をして、成果を共有します。すべて研究者の腕にかかっているのです。この考え方も踏襲しなければなりません。名称は宇宙科学“本部”となるかもしれませんが、“研究所の心”を忘れないで、本職の研究者であって欲しいですね。
Q: なぜ地球物理の科学者になられたのでしょうか。
理科好き少年でしたね。小学生のころには、ヨードが高く売れるというので、理科の先生と一緒に海藻を取ってきて、学校で煮てヨードを抽出したこともあります。実際に売ったかどうかは覚えていないのですが、そういうことが大好きでした。

 物理学では、天文学という選択肢もありました。40年ほど前は、ちょうどクェーサーが見つかって、天文学が注目を集め始めたころです。でも私は、クェーサーが宇宙の果てにあるといっても昔の光を見ているだけではないか、それで何が面白いのか、と思ってしまったのです。ところが、じつはものすごく面白かった。先見の明がありませんでしたね(笑)。
Q: 理科好き少年・少女が減っていると言われますが。
科学の絵や写真がきれいになりすぎて、それを見ると全部分かった気になってしまいます。しかし実際は、まだ分からないことばかりです。全部きれいな絵や写真にしてしまうのではなく、“未知への扉”を残しておくことも大切ではないでしょうか。そうすれば、多くの人が科学に興味を持ってくれると思います。私も理科好き少年のころに、別な“未知への扉”に出会っていたら違った道を歩んでいたかもしれませんね。