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ISASコラム

第8回 電波を通して眺めた金星の地形

(ISASニュース 2004年5月 No.278掲載)


明らかになってきた金星表面の姿
 金星の表面の姿は長い間、謎であった。厚い二酸化炭素の大気に覆われていて、しかも硫酸から成る雲が可視光を遮るために、外側からは表面の様子が分からない。

 1960年代から金星探査が始まり、旧ソ連の着陸船が次々と金星表面に着陸した(計10機!)。厚い大気で減速されるため、金星着陸ミッションは比較的容易なのである。金星表面は、地球の火山性の岩石、玄武岩であることが分かったが、観察したのは着陸船の周囲だけである。Pioneer Venus、Venera 15、Venera 16、Magellan探査機は、合成開口レーダーにより厚い大気に隠された表面地形を明らかにした。特にMagellanは、Sバンド(波長12.6cm)のレーダーにより金星表面の97%をカバーする最高120mの解像度の画像を得ることに成功した。


コロナ、ノバ、テセラの形成メカニズム


図1 コロナ(写真の横幅は350km)
 地球や他の惑星に存在する地形もあるが、金星に特徴的な地形も多い。特に「コロナ」と呼ばれる巨大な円環状地形は、金星で初めて確認されたもので、直径数百kmから1000kmを超えるものもある(図1)。地形の盛り上がりと溶岩流を伴うことから、地下のマントルの対流プリュームの上昇によって形成されたと考えられている。中には、中心から放射状の割れ目を伴うものもある。地下の岩脈の上昇に伴うもので、円環状地形のないものは「ノバ」と呼ばれている(図2)。岩脈とは、地殻の割れ目に溶岩が流れ込んで固まったものである。地球の火山でも円環状や放射状の岩脈を伴うものはあるが、金星のコロナとノバの規模は、はるかに大きい。


図2 ノバ(写真の横幅は350km)
 割れ目は、その地域の水平応力の最大圧縮軸の方向に伸びることが知られている。そのため、火山に走る岩脈の方向から火山形成時の応力の方向が求まる。我々は、金星で最も火山が多いベータ=アトラ=テミス地帯でこの手法を適用して応力分布を求めた。そこにはアトラ地域を中心として、放射状にコロナやノバが連続している構造があり、「コロナチェーン」と呼ばれている。溶岩流などを使った層序判定と、クレーター密度年代を使い、コロナチェーンより古い火山・新しい火山を分類して、形成時の応力分布を求めたのである。その結果、コロナチェーン形成前には南北圧縮(もしくは東西伸張)方向であった応力場が、コロナチェーン形成後にはアトラ地域を中心とした放射状の応力場に変化したことが分かり、アトラ地域にマントルから巨大な対流プリュームが上昇したというモデルを立てることができた。

 金星表面の半分以上は、溶岩で覆われた平原地域である。クレーター密度年代から、金星表面の全体が今から4〜7億年前の短い期間に溶岩の噴出により更新され、平原地域が形成されたと考えられている。平原地域には、水平方向の圧縮や伸張で形成される山脈や割れ目が存在しているが、横ずれ断層のように、地球で見られるようなプレートテクトニクスの直接の証拠はない。

 さらに、断層や褶曲(しゅうきょく)が複雑に入り組んでいて変化の激しい「テセラ」と呼ばれる地域があり、平原地域よりは標高が高くなっている(図3)。テセラの端では平原の溶岩に覆われている地点もあることから、テセラは平原地域よりも古い時代の地殻変動で形成されたと考えられている。


図3 オドバ領域のテセラ(写真の横幅は225km)
 金星で最も標高が高いのは、イシュタル高地にあるマクセル山で、標高12kmである。この高地は、内部の対流でダイナミックに支えられているというモデルがある


金星探査計画PLANET-Cへの期待
 惑星地形の科学では、表面の解像度が数倍良くなると、得られる新しい情報が1桁(けた)以上、向上する。将来の探査では、20m程度の解像度で表面の様子をぜひ調べてほしいと思う。

 日本の金星探査計画PLANET-Cでは表面電波探査は行われないが、大気を比較的よく通る1μm帯などを使い、火山活動による表面温度変化を探る計画がある。また、火山と雷活動の関係は以前から指摘されている。さらに、イシュタル高地などの地形が、大気の運動に影響を与えるかどうかも興味がある。