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ISASコラム

第46回
火星探査機「のぞみ」その3

(ISASニュース 2006年12月 No.309掲載)

のぞみ

長い旅路の始まり

探査機「のぞみ」は、1998年12月に行った地球パワー・スウィングバイで発生した燃料供給系の不具合によって火星到着が当初計画より4年あまり遅れ、その長い旅路が始まりました。この長期の航行に探査機が耐えられるか、プロジェクトマネージャーの鶴田浩一郎先生を中心に、衛星システムグループはいろいろな観点から検討に検討を重ねた末、「不測の事態」が起こらなければ大丈夫、という結論に達しました。

長期にわたり太陽を周回する惑星間空間の航行が始まりました。「のぞみ」チームはこの期間を有効に利用すべく、「のぞみ」の搭載機器の性能チェックをはじめとする各種の観測計画を立てました。そして、2002年12月の地球スウィングバイに向けて順調に航行を続け、多くの貴重な観測データを取得しました。

超遠距離通信と「合」運用技術の習得

「のぞみ」は、2000年12月26日から2001年1月20日にかけて、地球から見て太陽の向こう側に隠れる、いわゆる「合」となり、探査機との通信ができない期間に遭遇しました。また、この「合」の近傍で、地球との距離3億6300万kmという超遠距離通信(往復伝搬遅延時間40分20秒)を記録しました。この約3週間、自動地球追尾、自動姿勢制御など自律機能を働かせて無事「合」運用を乗り切りました。この自律運用成功はその後の運用に自信となりました。また、このとき、太陽近傍に地上アンテナを向けた際の貴重な太陽雑音データの取得にも成功しました。

科学観測

「のぞみ」は搭載観測機器として総計14の観測手段を持っていましたが、巡航期間中でも観測できる項目については本格的な観測を開始しました。その主な成果としては、(1)火星撮像カメラが「地球と月のツー・ショット」や日本で初めて月の裏側撮影に成功、(2)紫外光撮像器が太陽系外の星間風を観測、(3)極端紫外光撮像器が地球プラズマ圏の初めての撮像に成功、などがあります。そのほかにも、恒星間ダストの検出、太陽フレア現象の観測、月ウェイクの観測、星間風の観測、太陽風の長期モニター、太陽のコロナの構造の観測などが挙げられます。

「のぞみ」が測定した惑星間空間の水素ライマン・アルファ光の強度分布。明るく見える方向が、星間風の上流である。

電気系に不具合発生

順調に航行を続けていた「のぞみ」に、2002年4月、ミッション遂行にとって致命的な不具合が発生しました。それは4月22日に発生した最大規模の太陽フレアの3日後でした。この太陽フレアは地球から見て太陽表面西側で発生したのですが、それは「のぞみ」にとって打上げ後最大規模の高エネルギー粒子の直撃となりました。

まず2002年4月25日18:05(世界時)に、「のぞみ」はテレメトリモードに切り替わって入感する予定だったにもかかわらず、ビーコンモードで入感しました。地上から送信コマンドでテレメトリモードへの切り替えを行いましたが、成功しません。4月25日の9:00に姿勢制御の実施を予定していましたが、これも受信レベルから判断して実施されていないことが判明しました。ここでいう「テレメトリモード」は、衛星からの電波にテレメトリの情報を乗せている状態であり、また「ビーコンモード」は衛星から電波は出ているが電波にテレメトリ情報を乗せていない状態を意味します。

従って、このビーコンモードでは衛星の動作状況の情報がまったく得られず、事実上運用不可能になります。すぐにこの不具合を解明するための調査が始まりました。所内では原因究明と回復のために、衛星システムグループをはじめ不具合調査委員長の中谷一郎先生を中心とした関係者の血のにじむような作業が始まりました。

(井上 浩三郎)