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ISASコラム

第38回
磁気圏尾部観測衛星ジオテイル その3

(ISASニュース 2006年3月 No.300掲載)

ジオテイル

射場での作業

ジオテイル衛星は、米国フロリダ州ケープカナベラルのケネディ・スペースセンター(KSC)からデルタII型ロケットで打ち上げるため、同センターへ日本から空路輸送されました。現地での作業は初めての経験のため、ジオテイル・チーム内では事前に度重なる検討を行い、綿密な作業計画が立てられました。

現地でチーフとして作業に当たった元NECの上村正幸さんは、次のように語っています。

──米国での打上げに備えて射場作業計画チームが組織され、NASAから要求されたLaunch Site Operation(LSO)計画書や手順書の作成に当たりました。事前に入手した資料や現地での打ち合わせ情報をもとに完成した資料は、NASAの担当者からも「立派な資料です」とほめられたほどでした。このLSOチームは先発隊として早めに現地入りし、衛星班の受け入れ準備として、射場作業で使用する設備などの確認準備を行いました。コンドミニアム(賃貸マンション)の手配や周辺環境(レストランや日本食材料も含めて)の調査も、このチームの仕事でした。また、KSCに到着した輸送航空機のドアが開かず、バールでこじ開けているのを見たときは先行き不安になりましたが、射場作業は大きなトラブルなく順調に進行しました。──

また、システム担当として現地での作業を進められた横山幸嗣先生も、その際の経過を「ISASニュース」のジオテイル特集号で次のように述べています。

──5月初めに現地入りしたLSO班は直ちに衛星の動作チェック、6月には観測グループ到着を待って輸送後の詳細動作チェックを行い、正常であることが確認されました。その後、DSNとの適合試験、ヒドラジンの注入、スピンバランス、軌道投入モータPAM-Dへの結合などを行い、7月14日、ジオテイルは発射塔LC-17へ移動、デルタII型ロケットの3段目へ無事結合されました。これらの作業が容易に進められたのも、支援してくれた現地スタッフとLSO班の努力によるところが大でした。──

小生も短期間、現地の試験に参加しましたが、特に印象に残ったことでは、衛星試験場のセキュリティが厳しく、クリーンルームに入るのも大変だったことです。当時の宇宙研では考えられないことでした。また、この時期は雷が多く発生し、作業を中断することがたびたびで、作業に支障が生じたことも印象に残っています。15時半ごろから16時ごろまで雷が頻繁に発生するので、その時間を取り戻すため、作業開始を7時過ぎと早めにしていたのが思い出されます。

ジオテイル衛星のPAM-Dへの組付け作業風景

自炊しながら長期滞在

射場に到着した衛星をロケットへ組み付けるまで、現地での試験作業は長期にわたりました。このため実験班の大半の方はスペースセンターの近くの賃貸マンション「サンドキャッスル」にグループに分かれて居を構えました。そこはオーナー付きの高層マンションで、夏の暑い時季の短期間部屋を貸しているところを、我々ジオテイル・グループが安く借り上げたものでした。設備は整っており、各自(数人のグループ)自炊しての滞在でした。5月から7月の試験期間に、長い人で3ヶ月以上も滞在しました。寝食を共にする、普通ではできない貴重な体験でした。

衛星軌道上で行った日陰リセット・オペレーション

打上げ後の初期観測を始めた直後に、この衛星の観測装置の中でも最も重要と思われるプラズマ観測装置(LEP)がラッチアップ状態に陥りました。すぐに検討ワーキング・グループが結成され、これを解消するための日米間の研究者による検討がなされました。その結果、日陰を利用して衛星を一度仮死状態にしてラッチアップを解消するのがLEPを回復させる唯一の方法であるとの結論に至りました。しかしながら、これを実際に実施するのは大変なリスクを覚悟の上でのことだったと聞いています。当時この観測装置を開発され、このオペレーションに立ち会った向井利典先生に、次号でその苦労について語ってもらいましょう。

(井上 浩三郎)