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ISASコラム

第36回
磁気圏尾部観測衛星ジオテイル その1

(ISASニュース 2006年1月 No.298掲載)

ジオテイル

ジオテイル(GEOTAIL)衛星は、発射予定日より10日遅れて1992年7月24日14時26分(世界標準時)、アメリカ・ケネディ宇宙センターの発射台LC17Aから、デルタII型ロケットによって打ち上げられました。当初投入された軌道は、遠地点高度34万9985km、近地点高度184.8km、軌道傾斜角28.66度で、打上げ精度は満足すべき結果でした。

打上げロケットの変更

打上げロケットとしては、当初スペースシャトルが予定されていましたが、1986年のあのチャレンジャー事故によって、急遽デルタロケットに変更になりました。それまで有人ミッションによる打上げということで、厳しい安全基準をクリアするのに苦労していたわけですが、皮肉にもそれがなくなったのは不幸中の幸いでした。

この打上げロケットの変更、宇宙研の衛星試験装置(磁気シールドルーム、恒温槽)の搬入口拡張などによって、衛星の最大寸法に対しても制約が緩和されることになりました。その結果、衛星円筒部の直径を2.1mから2.2mに、また高さを1.5mに増やすことができました。そのため、太陽電池の発生電力にも余裕ができ、3年間の飛翔による劣化を考慮しても、寿命の最後に約340Wを確保できる見通しとなりました。

DELTA-IIロケットによるジオテイル衛星の打上げ

本格的な国際協力ミッション

当時、地球周辺の空間に多数の衛星を打ち上げて、太陽から地球の電離圏にかけての広大な領域で総合的な観測を行う太陽地球系物理学国際共同観測(ISTP:International Solar Terrestrial Physics Program)が計画されていました。NASA(米)、ESA(欧)、IKI(露)、ISAS(日)の共同プロジェクトです。

宇宙研としては初めての本格的な国際協力ミッションとあって、プロジェクト・マネジャーの西田先生を中心として、計画段階では工学側から上杉先生、二宮先生、中谷先生、観測側から木村磐根先生(京大)、鶴田先生、向井先生、システム担当として横山(幸)先生、橋本(正)先生等々、そうそうたるリーダーたちがその任に当たりました。

取り決めとして、ロケットはアメリカ側が担当し責任をもって衛星を打ち上げ、衛星は日本側が担当し、設計・製作・試験・運用を行うこととなりました。

ミッションプラン

ミッションとしては、1年目には遠地点200Re(Reは地球半径=6378km)の長楕円軌道に投入し、月の引力を利用して衛星が常に夜側にいるように調節しながら、磁気圏尾部の遠隔領域を探査します。太陽風プラズマが磁気圏の尾部へどのようにして侵入するのか、その過程を研究するのです。これがDistant Tailのフェーズです。

2年目以降は、ジオテイル衛星を近地点8Re、遠地点30Reの赤道軌道に置き、磁気圏尾部の比較的地球に近い領域を通過させて、磁力線リコネクション過程についてその発生条件や粒子加速機構を研究します。Near Tailのフェーズです。

苦労したアンテナ伸展

打上げ約20時間後に臼田局の64mアンテナでジオテイル衛星からの電波が受信され、衛星が正常であることが確認されて以降、所定の初期運用がされたのですが、アンテナの伸展には苦労がありました。

共通機器の動作チェック、各観測機器への電源投入、高圧電源投入などが行われた後、8月27日に4本の50mワイヤーアンテナの伸展を行いました。これは、一部問題が生じたものの、あらかじめ考案されていた回復手順に従って無事作業を終了しました。

9月4日に行われた2本の6mマスト伸展においては、一方のマスト(MAST-F)は完全に伸展したものの、もう一方(MAST-S)が2.7mで停止する事態になってしまいました。検討の結果、原因が解明され、スピンを低下させて9月16日にはマストは完全に伸展されたのですが、一時はどうなるかと肝を冷やす事態でした。

こうしてジオテイル衛星の初期運用は正常に終了し、9月8日に行われた月スウィングバイで近地点80Re、遠地点220Reの長楕円のDistant Tail軌道に無事投入され、いよいよ定常運用に入りました。

(井上 浩三郎)