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ISASコラム

第33回
X線天文衛星「あすか」 その1

(ISASニュース 2005年9月 No.294掲載)

あすか

第15号科学衛星ASTRO-Dは、「はくちょう」、「てんま」、「ぎんが」に続く我が国4番目のX線天文衛星です。宇宙最深部の新たな探査と、多種多様なX線天体の精密観測を日米協力によって行うことを目的として、1993年2月20日11時00分、M-3SIIロケット7号機によって内之浦から打ち上げられました。近地点高度525km、遠地点高度622km、軌道傾斜角31.1度、軌道周期96分の軌道に投入されたASTRO-Dは、「あすか」(飛鳥、ASCA;Advanced Satellite for Cosmology and Astrophysics)と命名されました。

衛星の外観

上の写真に示すように、「あすか」は構体本体と太陽電池パネルにより構成されており、構体本体は衛星の中央部に伸展型トラス構造のX線望遠鏡を配置しています。重量はおよそ420kgです。3.5mの焦点距離を持ったX線望遠鏡は、そのままではロケットの先端の衛星格納スペースに入り切らないため、打上げ時には畳んでおいて、衛星が軌道に投入されてから望遠鏡を伸展する仕組み(伸展式光学ベンチ)になっています。

姿勢制御はバイアスモーメンタム方式の3軸制御で、太陽方向による制限の範囲内の任意の方向に、1分角より高い精度でX線望遠鏡を向けることができます。

一連の準備作業後、衛星の基本動作確認、姿勢制御系の性能評価、観測機器の基本的な性能評価を終え、4月20日から試験観測に入りました。

初めての衛星横転輸送と旧衛星整備センターでのハンドリング

「あすか」は、焦点距離が長い望遠鏡を搭載した構成で、従来にない縦長の衛星でした。そのため専用の横型のコンテナを製作し、衛星を横にして輸送しました。衛星試験のたびに衛星を横にしたり、立てたり、危険を伴う神経を使う作業が続きました。特に、横転台車がある今では考えられないことですが、内之浦の旧衛星整備センターを使用する最後の衛星になった「あすか」は、1軸しかないクレーンとチェーンブロックを駆使してハンドリング作業を行いました。当時作業をされたNECの安田さんと西根さんは、「衛星を横に倒す作業は神経を使いました」と、感想を述べられています。

ハラハラした軌道上での伸展式 光学ベンチの伸展

3月2日に衛星内に収納されているX線望遠鏡の光学ベンチの伸展が行われました。

この伸展が失敗するとミッションが駄目になる非常に大事な作業でした。伸展は収納状態のクランプの解除から始まり、サンシェードの展開、最終状態のラッチとすべて順調に行われ、X線望遠鏡は所定の焦点距離3.5mの位置に固定されました。パドルの展開と光学ベンチの伸展により、「あすか」の軌道上での最終的な形態が完成されました。この伸展式光学ベンチを採用するまでには、いろいろと議論があったと伺っています。

プロジェクトマネージャーの田中靖郎先生は『あすかの思い出』の中で次のように述べておられます。「まず難関は、長い焦点距離の鏡筒をどうするか?そのままではノーズフェアリングに納まらない。あれこれ考えたが、軌道上で首を伸ばすしか方法はない。しかし失敗すればミッション全体がおしゃかになるとの難色も出た。小野田先生に相談に行ったところ、“やれるかもしれませんね、試してみましょうよ”とおっしゃった。先生の1年かけての試験の後、GOが出た。あの伸展ベンチは先生のおかげにほかならず、誌面を借りて厚くお礼申し上げたい」と。

(井上 浩三郎)

伸展式光学ベンチの試験風景。(左)伸展前 (右)伸展後