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ISASコラム

第32回
太陽観測衛星「ようこう」その3

(ISASニュース 2005年8月 No.293掲載)

ようこう

鮮明に脳裏に残ったSXTのファーストライト

「ようこう」の打上げから4日目の1991年9月3日に、搭載した軟X線望遠鏡(SXT)から太陽の初画像が送られてきました。その時のことは、今でもはっきりと思い出すことができます。驚くほど鮮明な画像でした。このSXTを開発・担当した常田佐久先生(現・国立天文台教授)は、ファーストライト(新しい望遠鏡による最初の観測)で取得されたデータからくっきりとした太陽像が浮かび上がったときの感想を、次のように語っています。

― SXTで鮮明な像が撮れました。1本1本のループが鮮明に見え、見慣れていたスカイラブの画像と比べて、別世界のような鮮明な画像でした。打上げ後1ヶ月で最初のムービーが作られ、その刻々変化する太陽の姿は、世界の専門の研究者にも大きな衝撃を与えました。ファーストライトでは、感激もありましたが安心した気持ちの方が強く、内之浦発射場の場内を一人散歩したのを覚えています。ファーストライトの約1週間後、機上の自動機能が予定通り働いて、フレアの鮮明な画像が次々に送られるようになったときが、私が最も感激した瞬間でした。この機能が「ようこう」の成果をもたらしたのですが、一人感激をしみじみ味わいました。 ―

科学的成果

「ようこう」は多くの科学的成果を挙げましたが、ここではその詳細は述べません。プロジェクトマネージャーを小川原嘉明先生から引き継がれた小杉健郎先生は、その成果を次のように述べています。

― X線からガンマ線領域で働く4種類の観測装置により10年3ヶ月にわたり太陽活動の科学観測を継続し、太陽活動周期の1周期(約11年)をほぼ連続観測した世界初の科学衛星です。(中略)また画期的な性能の硬・軟両X線望遠鏡で「新しい太陽像」を獲得、そして軟X線望遠鏡は衛星に載せたX線望遠鏡として世界で初めてCCDカメラを検出器として使用し、高分解能・高画質・連続観測で超高温の太陽コロナがさまざまな空間・時間スケールでダイナミックに激しく変動する様子を鮮明に映しました。 ―

 

 さらに「ようこう」は、日米英それぞれの得意な技術を活かした国際協力を行い、インターネットで全世界へデータを配信し、最先端の科学成果を親しみやすい形で社会へ還元しました。

衛星打上げ直後の1991年11月(左)から1995年末(右)まで軟X線望遠鏡(SXT)によって撮られた太陽コロナの姿。約11年の太陽黒点周期の極大期から徐々にコロナが暗くなっていくのが分かる。

停波により運用を終了

「ようこう」は2001年12月15日に南太平洋の上空で金環日食に遭遇したことに端を発し、姿勢制御異常による衛星の回転、衛星電池の充電ができなくなることによる電源消失という事態に陥り、太陽指向姿勢を失った結果、正常な観測ができなくなりました。2年以上にわたり復活を試みましたが、電池充電の条件が整わず、衛星高度も落ちてきたため観測を断念しました。2004年4月23日、このプロジェクトを成功に導かれた「ようこう」衛星の前プロジェクトマネージャー小川原先生の立ち会いのもと、衛星電波停止のコマンドを送信し、運用を終了しました。「ようこう」衛星は総合試験のノイズ問題に始まり、打上げ直前のBCSの電源リレー、バッテリー温度、第1周目に行ったパドル展開時のマイクロスイッチアンサー、長期観測の最後に遭遇した金環日食への突入など、いろいろな問題・出来事がありましたが、それらを一つ一つクリアし、ミッション寿命3年をはるかに超えて、10年3ヶ月という長期にわたる観測で数々の成果を挙げました。これらのことは大きな自信となり、また、この経験は次に続くSOLAR-Bに活かされることと思います。

なお、「ようこう」衛星は1991年8月30日打上げ以来、2005年8月30日で14年目を迎えますが、来る9月14日ごろ大気圏に突入し消滅する予定です。

(井上 浩三郎)