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ISASコラム

第30回
太陽観測衛星「ようこう」その1

(ISASニュース 2005年6月 No.291掲載)

ようこう

1990年代に人類の太陽像を革命的に変革したSOLAR-Aは、1991年8月30日11時30分にM-3SIIロケット6号機によって打ち上げられ、近地点高度517.1km、遠地点高度792.8km、軌道傾斜角31.3度、軌道周期97.9分の軌道に投入されました。

一般公募によって「ようこう(陽光)」という名前が付けられました。「ひのとり」に次ぐ2番目の太陽観測衛星です。「ようこう」は、太陽活動極大期に太陽フレアの高精度画像観測など、太陽表面の高エネルギー現象を総合的に観測し、太陽フレアを中心に太陽活動を解明しようとするものです。

観測装置

日米英協力のものなど、4つの観測装置が搭載されました。軟X線望遠鏡(SXT、日米協力)によるコロナ構造の観測、硬X線望遠鏡(HXT)による太陽の超高温エネルギー現象の観測、ブラッグ結晶分光計(BCS、日英米協力)による元素の線スペクトルの観測、広帯域X線・ガンマ線分光計(WBS)による太陽が放射する高エネルギー放射全般に起こるエネルギースペクトルの観測です。

機器の作動状況

軟X線望遠鏡(SXT)で撮影した太陽全面像

衛星軌道投入後の一連のオペレーションの後、打上げ2日後の9月1日から順次観測機器の電気系の試験が始まりました。高圧電源を必要としないSXTは、9月2日に初期チェック後、9月3日に軟X線による太陽の撮像を開始しました。最初の撮影から驚くほどの鮮明な画像が得られ、光学系も含めた全系統の正常な動作が確認されました。その画像は、世界中の太陽物理学者に大きな胸のときめきを起こさせるものでした。

9月25日には、合計15個の高圧電源の投入が正常に完了し、初期運用と観測器の較正、試験調整を経て定常運用へ移行しました。

電源ノイズで苦労した総合試験

「ようこう」の電源システムは、これまで宇宙研の衛星で採用してきた非安定バス方式から、安定バス方式に変更されました。これまでのシステムは日陰ではバッテリの放電によって負荷に電源を供給していたのに対し、新規採用した安定バス方式はバスと負荷の間にブーストアップコンバータを挿入して、日陰でも日照と同じバス電圧を保持し、負荷に電源を供給できるというものでした。

これは大変魅力的なものでしたが、総合試験においては電源システムから出る高周波ノイズが予想より大きいことが判明し、電源システム自身のノイズ低減処置対策と同時に、各機器側の入力にノイズ除去フィルターを挿入したりして、大変な努力が払われました。

衛星整備センターの狭い入り口に、「ようこう」衛星が入ったコンテナを手押しで搬入する風景

当時、工学システム担当の高野忠(宇宙研)、理学の常田佐久(国立天文台)両先生は工場まで足を運ばれ、ノイズ低減処置に対応された、と伺っています。最終的には、衛星主任の小川原嘉明先生の決断により、電源ラインにフェライトコアを挿入してノイズを規定のレベル以下に抑え込みました。その結果、10年以上にわたりまったく問題なく搭載機器に電源を供給し続けました。その対策が適切であったといえます。

(井上 浩三郎)