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ISASコラム

第26回
磁気圏観測衛星「あけぼの」その1

(ISASニュース 2004年12月 No.285掲載)

あけぼの

「きょっこう」、「じきけん」に続く、我が国第3番目の磁気圏観測衛星EXOS-Dが、1989年2月22日8時30分にM-3S-IIロケット4号機によって内之浦から打ち上げられ、近地点高度272km、遠地点高度10472km、軌道傾斜角75.1度、周期211.2分の所定の準極軌道に投入され、「あけぼの(曙)」と命名されました。

多くの人々を惹きつけてやまないオーロラは、地球の上層大気が磁気圏から降り注ぐ数キロ電子ボルトの粒子によって励起され、発光している現象といわれています。当時、5000〜50000km上空に、オーロラ粒子を加速し強い電磁波を放射している領域(粒子加速域)のあることが分かっていました。「あけぼの」衛星は、この不思議な領域に突入し、その中でプラズマ諸量を直接測定すると同時に、上空からオーロラの撮影を行うことによって、オーロラ粒子加速のメカニズムを解明しようとするものでした。

「あけぼの」衛星の概要

写真に示すように対辺寸法1.26m、高さ1mのほぼ8角柱の形をしており、重量は約300kgです。4枚の68×121cmの太陽電池パドルを展開し、約280Wの電力を発生します。衛星の姿勢は、スピン安定方式の姿勢制御を採用し、磁気トルカにより常にスピン軸を太陽方向に向け、毎分7.5回転するよう制御されます。

KSC第1可視
緊張の中で衛星の健康状態をチェックする「あけぼの」チームの面々

通信系は、「あけぼの」の軌道から考えて通信回線に広いダイナミックレンジが要求され、そのため送信電力は4段切り替えが行えるようになっています。またこの衛星には、多くの技術開発が盛り込まれています。例えば、複雑な衛星システムの中枢頭脳となるDHU(データハンドリングユニット)と、これに結合するサブシステムがコンピュータ化されており、60Mbits記憶素子にバブルメモリの採用、そして3mと5mのセンサー搭載用のブーム、シンプレックスマスト、4本の30mワイヤーアンテナの伸展、さらにオーロラカメラ用制御テーブルの設置などです。また帯電や放電の過酷な状況に対処するために、全面を導電性に保つための細心の技術的配慮がなされています。

観測器はオーロラに関連した磁気圏の物理現象の解明のために、紫外線撮像カメラ(ATV)をはじめ合計8個が搭載されています。

機器の動作状況

所定の軌道に投入された「あけぼの」は、発射後462秒にキックモータの分離を行い、476秒にはヨーヨー・デスピナの作動により、衛星のスピンを毎分6.3回に落としました。

その後、南極昭和基地で衛星電波を受信し、テレメータ情報から9時30分39秒(日本標準時)に太陽電池パドルの展開が正常に行われ、衛星のスピンが毎分4.7回になったことが確認されました。

伸展マストの試験風景

KSC(鹿児島宇宙空間観測所、現在の内之浦宇宙空間観測所)の第1可視(17時30分〜18時44分)では、衛星の動作はすべて正常で、アンテナやマストの伸展作業が3月4日から3月9日にわたり順調に行われました。これによりいくつかの機器の観測が可能となりました。高圧電源投入は、衛星内部からのアウトガスや過去の経験を考慮して、打上げ後約1ヶ月の3月27日から4月3日にかけて慎重に行われました。

「あけぼの」の観測装置は多くの高圧電源を使用しており、軌道上の高圧投入時に放電事故を引き起こす危険性をはらんでいるため、投入方法も低い電圧から徐々に上げていくなどの手順を踏まえて実行されました。そして今回、放電に対する保護として初めてパリレン(商品名)という高分子材料の薄い膜によるコーティングが試みられました。その結果、一部に初期放電とおぼしき現象が見られましたが、ほぼ正常に作業を終了することができました。以上のように一連の動作を順調に終えた「あけぼの」は、定常観測に入りました。

(井上 浩三郎)