宇宙航空研究開発機構 サイトマップ

TOP > レポート&コラム > ISASコラム > 浩三郎の科学衛星秘話 > 第20回 ハレー試験探査機「さきがけ」その1

ISASコラム

第20回
ハレー試験探査機「さきがけ」その1

(ISASニュース 2004年6月 No.279掲載)

さきがけ

世界初の固体燃料による地球脱出

M-3Sロケットを改良したM-3SIIロケット1号機に搭載された試験探査機MS-T5は、1985年1月8日4時26分(日本標準時)に打ち上げられました。日本として地球の重力圏を初めて脱出し、太陽周回軌道に投入されたMS-T5は「さきがけ」と命名されました。

「さきがけ」は、76年ぶりに太陽に回帰してきたハレー彗星を探査するPLANET-Aの試験探査機として打ち上げられたもので、ロケットの飛翔性能確認とともに、わが国初の試験探査機の惑星間空間軌道達成と、太陽周回軌道に打ち上げられたときに必要な惑星間空間軌道の生成と決定、超遠距離における通信、姿勢制御および決定など、新技術の習得を主目的としました。

実験班は全員、内之浦で越年して打上げに備えました。打上げ予定日は1月5日でしたが、天候不良で初日を見送りました。6日には打上げ直前に補助ブースタ可動ノズルの油圧駆動用モータの電源開閉回路が一時閉じなくなる不具合が発生しましたが、地上装置に問題があることが確認されたため、1月8日の打上げに至りました。この成功は宇宙研が総力を挙げて達成したもので、実験班の底力を見たようでした。

わが国初の人工衛星「おおすみ」誕生から数えて15年、記念すべき年になりました。秋葉実験主任より「120%の成功」との場内放送があったのも、このときでした。科学観測として太陽風プラズマと惑星間磁場の観測を行うために、太陽風イオン観測器(SOW)、プラズマ波観測器(PWP)および太陽風・惑星間空間磁場観測器(IMF)という3種類の観測器が搭載されました。

打上げ後の状況

惑星間空間軌道に打ち上げられた「さきがけ」は順調に飛行し、新設されたばかりの臼田深宇宙局で第1パスの電波を日本標準時1月8日9時55分に受信しました。受信して得られたデータにより、M-3SIIロケットの性能確認が完全に行われました。その後、探査機搭載機器の正常動作を確認し、測距、軌道決定、姿勢制御、軌道修正など一連の深宇宙探査技術のチェックが順調に行われました。2月19日および20日には、観測装置のアンテナおよびブームの展開、高圧電源の印加が正常に行われました。科学観測も正常に続けられ、1986年3月のハレー接近時には太陽風のデータの取得が順調に行われました。

探査機の開発

超遠距離用アンテナとして開発された低速のデスパン機構を持つ直径80cmのオフセットアンテナ

「さきがけ」はわが国で初めての惑星間空間探査機で、地球周回衛星と多くの点について異なっており、その開発には関係者の大変な努力がありました。超遠距離通信、軌道および姿勢制御、軌道生成、軌道決定、姿勢決定、熱制御など、初めての経験で、重量はロケットの性能から約140kgと決められていました。

衛星班をはじめ関係者による度重なる検討の結果、形状を円筒形として、姿勢はスピン安定方式にして安定を図り、大きさは太陽電池の面積と姿勢制御用ジェットの観点から、直径1.4m、高さ70cmとしました。

(井上 浩三郎)

探査機にアンテナを取り付ける総合試験風景