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ISASコラム

第9回
第3号科学衛星「たいよう」

(ISASニュース 2003年6月 No.267掲載)

打上げ前の名前はSRATS(スラッツ)といい、1975年2月24日14時25分M-3C-2号機によって打ち上げられ、近地点高度255.24km、遠地点高度3136km、軌道傾斜角31.5度、周期121分の軌道に載り「たいよう」と命名されました。東大理学部の亡き等松教授が中心になって計画され、太陽輻射エネルギーを受けて様々に変化する熱圏の振舞いを調べるため、特に太陽活動静穏時を選んで軌道に投入されたものです。これによって静穏期の地球のプラズマ環境を決めることができたので、もし異常現象が発生したときは、明確にその影響を調べることが出来るようになりました。

電波誘導システムによる衛星軌道投入精度の向上

M-3C-1でテストされた電波誘導システムが、この「たいよう」の打上げで見事に働きました。このシステムは、精測レーダの追跡データを基に地上計算機上の電波誘導プログラムを走らせ、その結果を用い地上からのコマンドによって、第2段姿勢制御プログラムの修正、第3段打出し方向修正および最終段点火時刻の修正を行うものです。衛星の軌道投入を格段に向上させる見通しのできたことは何より嬉しいことでした。

搭載機器の動作状況

打上げ後の共通機器の動作はすべて良好で衛星温度も正常に維持され、第1周では、コマンドによるヨーヨーデスピナの作動でスピンを11.5rpmに低下させ、プローブの展開を行いました。発射後4日目から5日間かけて地球磁場を利用した衛星姿勢制御によってスピン軸を軌道面に直角にし、車輪がころがるような、いわゆるローリングホイールモードを実現させました。24日目と28日には観測器の高圧電源の投入を行い、その正常動作を確認後観測体制に入りました。

科学観測

科学観測は、太陽電池の出力と電池容量の関係ですべての観測機器の電源を同時にオン出来ない電力事情のため、こまめに電力計算しながら行ったのを思い出します。その結果、太陽活動が静かな時期の地球プラズマ環境のデータを数年にわたり取り続けました。主なものは南太平洋地磁気異常プラズマ現象に関するものであり、その後の衛星による電離層プラズマ研究がめざましい成果をあげる糸口を作った衛星として特記されます。

また、この衛星はホイールモードを保持しながら観測を行うことで、衛星の大気抵抗に対する断面積が一周軌道に亘って一定であり、そのドラッグを利用して大気密度及び大気温度を求める試みがなされました。さらに同じような観測を行う西ドイツのAEROS-B衛星と国際協力研究が進められました。

すばらしき「たいよう」チーム

この衛星チームは、平尾先生を中心に非常に良くまとまり、衛星の設計、製作、試験を通じてメーカーの方々と宇宙研メンバーとの人的信頼関係が深まりました。難しい局面に遭遇しても見事なチームワークでそれを乗り越える力を持つ素晴らしいチームでした。これは一連の長い総合試験の合間をぬってたびたび行った反省親睦会で杯を重ねて培われたのでしょうか。1999年4月18日「たいよう」の同窓会が行われました。25年振りにチームが一同に会し、当時の苦労話に花を咲かせましたのもこのチームならではのことでした。

(井上 浩三郎)