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ISASコラム

第4回
試験衛星「たんせい」(後編)

(ISASニュース 2002年11月 No.260掲載)

内之浦において第1周の受信が14時50分40秒(日本時間)から15時9分12秒の間に行われ、人工衛星軌道に乗ったことが確認されました。衛星寿命は酸化銀電池の容量から1週間と決まっていましたが、内之浦における観測は、2月23日15時(第96周)まで実施しました。この間太陽電池の性能を計測する機器以外の搭載各機器はいずれも正常に作動し、37回行ったデータレコーダの再生データから周回中の衛星各部の温度、電源電圧、電流、姿勢、スピンなどに関する豊富な資料を入手する事ができました。また、テレメータ、コマンド系の試験も良好に行われました。

その結果、衛星内部の温度、環境がほぼ予測通りの良好な状態に保たれ、姿勢もきわめて安定に保たれていることが確認されました。また、電池の寿命もほとんど当初の予定どおりでした。太陽光を反射させ地上からの光学観測を行うための反射鏡も目的を果たしました。

Mロケットで打ち上げた衛星へ初めてコマンド電波を送ったときのことを述べたいと思います。軌道上の衛星をコントロールできるのは唯一地上からの送信コマンドです。地球を1周回した衛星がコマンドをちゃんと間違いなく受け付けてくれるだろうか?これが不調に終わればミッションはすべてだめになってしまう。地上で何カ月もかけて試験を行ってきたので絶対大丈夫、PN符号(Pseudo-Noise Code)から作ったコマンドで誤る確率は非常に小さいはずですが、自信と不安が錯綜して胸を締め付けられました。結果はすべて良好でしたが、後日、ある新聞社から「どんな気持ちでコマンドを打ちましたか」とインタビューを受けた時、野村民也先生が「『神に祈る思いで打ちました』と言いなさい」とアドバイスしてくださったのに、インタビューでは「淡々と打ちました」と強がりを言ったことが思いだされます。今はすべてコンピュータがやってくれますが、貴重な経験をさせていただきました。

今では笑い話になりますが、無重量の軌道上でデータレコーダの回転を止めると2度と回転しないのではないかと真剣に議論したものでした。結局ミッションが終わるまで1度も止めることがありませんでした。なにしろ地球1周したときのデータ(特に日本から見えないところのデータ)を出来るだけ多く集めることがミッションの目的を達成できるカギを握っているというわけで、データレコーダがすべてでありました。

衛星で記録されたデータを内之浦の上空で19倍の速さで再生し、それを地上で受信するという、記録と再生の繰り返しで、データコーダには過酷な耐久試験をしたことになりましたが、宇宙環境下での貴重なデータを取得することが出来ました。ともあれ、この「たんせい」衛星の成功は、我々実験班の大きな自信となり、Mロケットによる日本の科学衛星の時代が始まりました。当時の皇太子殿下(現在の天皇)が駒場キャンパスに見学に見えたことがあります。写真はその時のもので高木昇先生と糸川英夫先生が説明されています。

(井上 浩三郎)