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ISASコラム

第3回
試験衛星「たんせい」(前編)

(ISASニュース 2002年10月 No.259掲載)

わが国初の人工衛星「おおすみ」の後をうけて、東京大学が進めてきたMロケットによる科学衛星打ち上げ計画の第1段階として、1970年9月25日にM-4S-1号機で第1号科学衛星のフライトモデルMS-F1の打ち上げを行いました。しかしながらロケット姿勢制御部の電磁弁不具合によって過度にスピン数が増大し、第4段不点火という不慮の事故で軌道に乗せることが出来ませんでした。

こうした状況のもと急遽計画されたのが、この試験衛星MS-T1でした。すでに3種類の科学観測機器を搭載する科学衛星のフライトモデルMS-F2を用意していましたが、慎重を期してM-4S-2号機にはこれを乗せず、新しく試験衛星を製作することになりました。

この衛星は軌道上における衛星の環境および機能試験を目的としたもので、第1号科学衛星とほとんど同型、同重量で、主要エレクトロニクスも電源を除いてほとんど同一のものでした。部品をかき集め、3カ月で製作し、年内に飛翔前試験にこぎつけるという、今では考えられない猛スピードで2月の打ち上げに間に合わせました。当時の実験チームの意気込みが伝わってくるようです。特に衛星を製作した関係メーカーのご苦労は並大抵ではなかったでしょう。

この衛星は1971年2月16日、M-4S-2によって衛星軌道投入に成功しました。初のミュー・ロケットによる衛星で、近地点高度990km、遠地点高度1,110km、周期106分で、わが国2番目の衛星となりました。東京大学のスクールカラーにちなんで「たんせい」(TANSEI、淡青)と命名されました。

「たんせい」の形状は、直径約75cmの球に内接する26面体であり、構体はマグネシウム合金で、外板には厚さ8mmのアルミニウムハネカム板が使用されており、表面にはエポキシ系半光沢黒色塗装が施してあります。パネルのあちこちには反射鏡6個がはられています。重量は63kgです。

衛星の写真を図1に示します。

ロケットに結合した「たんせい」

主な搭載機器は、表のとおりです。

主な搭載機器
TM 計測データーを地上に伝送するテレメータ送信機
CM 地上からの送信電波を受信し積載機器の動作モードを制御するコマンド受信機とデコーダ
DR 計測データをほぼ1周分に相当する95分間記録し、内之浦上空で19倍の速度で再生する磁気テープ方式の衛星搭載データレコーダ
BAT 機器に電力を供給する酸化銀亜鉛電池
HK 電源電圧、電流および各部の温度を測定する衛星内部環境計測器
GAS 太陽センサをそなえた地磁気姿勢系
SC-M 正規の太陽光による出力とアルべド光による出力の測定を行う太陽電池性能計測器

(井上 浩三郎)