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ISASコラム

再び宇宙大航海へ臨む「はやぶさ2」
最終回

「はやぶさ2」初期運用速報

「はやぶさ2」プロジェクト エンジニア
津田雄一
(ISASニュース 2015年2月 No.407掲載)

 打上げは極めて順調だった。探査機がロケットから分離されて約20分後、NASA・DSN(深宇宙ネットワーク)のゴールドストーン局で予定通り「はやぶさ2」の電波を捕捉。この捕捉の早さにこだわり、H-IIAロケットには、地球を1周してから探査機を深宇宙へ打ち出す「ロングコースト打ち」という技術に挑戦していただいた。打上げ直後の軌道投入精度評価結果は、極めて良好。探査機から送られてくるテレメトリからは、パドル展開、太陽捕捉が正常に実行されたことがうかがえ、管制室は「俺たちの出番!」とばかり、訓練を積んできた管制メンバーの良い緊張感で満ちる。

 打上げ7時間後からは内之浦(USC)34m局による国内第1可視運用が開始。三軸姿勢確立、サンプラーホーン伸展、イオンエンジンジンバルのロンチロック解除を実施した。私たちはここまでの作業の異常想定と緊急手順作成に多くのエネルギーを費やしてきたのだが、ふたを開けてみたら素晴らしくスムーズな進行。さらにいくつかの重要な初期設定と精密軌道決定を行い、3日間のクリティカルフェーズを無事完了したのだった。

 2014年12月7〜17日には、搭載各機器の軌道上チェックアウトを順次実施。バス系各機器の健全性確認に加え、個性豊かなミッション機器群のチェックアウトを完了させ、ミッション系としても軌道上運用に供する準備が整った。

 12月18日からは電気推進系関連の試験を開始。4基のイオンエンジンを1基ずつ立ち上げ、全スラスタが設計通り機能することを確認した。

 年末年始は精密軌道決定運用。年越し運用に携わった皆さん、本当にお疲れさまでした。

 年明け1月6〜10日には、深宇宙探査用に新規開発したKa帯通信系の運用を集中的に実施。残念ながら臼田・内之浦の地上系はKa帯に対応していないため、「はやぶさ2」では全ミッション期間を通じて主にDSN局を利用することとなっている。DSN側にもこの運用の重要性を大変よく理解していただき、重厚な技術サポート体制を敷いていただいた。「はやぶさ2」のKa帯全機能が、DSNのマドリッド、ゴールドストーン、キャンベラ全局で実証された。「普通は30日間くらいかけてやるんだけど」と言いながら、こちらの提示した試験メニューすべてに対応してくれたDSNスタッフの底力には畏敬の念すら感じる。個人的には、機関間の垣根を感じさせず、純技術的に高みを目指そうとする彼らとの調整は、厳しくも大変楽しいものであった。これらの運用により、日本の深宇宙探査機として初めてKa通信が実現し、ミッションとしては小惑星到着後の高速通信にめどが付いたことになる。

 1月11〜20日は、再び電気推進系の試験。イオンエンジン2基・3基同時運転を実施し、電気推進系チームの微に入り細にわたる調整の後、想定通りの最大推力約28mNを出せることが確認された。姿勢軌道制御系チームの良い仕事で、推力軸も精確に探査機重心を貫いた。そして、定常巡航を実現するためのハードルに設定していた24時間連続運転を、1月20日に無事完了させたのであった。深宇宙探査の運用はテンポが遅く、なかなか感極まる瞬間がないものだが、この時ばかりは、管制室は打上げ時以来の拍手と笑顔、笑顔、笑顔。

 この後、「はやぶさ2」は、およそ1ヶ月かけて、まったく新しい運用に着手することになっている。それは、“ソーラーセイルモード”とでも呼ぶべき運用法で、太陽光の光圧による擾乱を積極的に利用することで、より安全かつ省燃料で巡航姿勢を維持するモードである。「はやぶさ」初号機で編み出され、小型ソーラー電力セイル実証機IKAROSで洗練された運用法を、さらに発展させた。このように過去の経験を積極的に技術展開するのも、2号機ならではだろう。

 探査機は3月には定常運用へ移行し、2015年12月の地球スイングバイに向けて、本格的な動力航行を開始する。

 思えば本格検討開始から約4年。チームの皆さんとは非常に濃密な時間を過ごさせていただいた。これまでに順調な成果が得られたのは、JAXA・メーカーの開発メンバー各位の努力と献身のたまもの以外の何物でもない。エンジニアリングとサイエンスが一体となった良いチームワークも醸成できた。「はやぶさ2」は難しいミッションであり、前途が約束されているわけではない。今チーム内を満たしている結束力と挑戦力で、これからの多難を乗り越えていきたい。

図1 「はやぶさ2」再突入カプセルの構成
図1  2014年12月3日、打上げを見守る管制室の「はやぶさ2」管制チーム。

図2 再突入カプセルに映るカプセルチームの面々
図2  1月16日のイオンエンジン3基同時運転時の2wayドップラーデータ
加速により探査機の受信周波数がドップラーシフトを受け変化していく様子が見える。変化レートから、設計推力である28mNが出ていることを示している。

(つだ・ゆういち)