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ISASコラム

第12回:宇宙の麗人 惑星になれなかった惑星 ― 小惑星ベスタ

(ISASニュース 2005年11月 No.296掲載)

 太陽系には,いくつの惑星があるのでしょうか? 最近,10番目の惑星発見か!?というニュースが時折,飛び込んできます。この惑星探しは,実は今に始まったわけではありません。ヨハン・ダニエル・ティティウスが今から約240年前に,当時知られていた6個の惑星(水星〜土星)の太陽からの距離はある関係で示されるという法則を発見しました。その約15年後に天王星が発見され,太陽からの距離がこのティティウスの経験則に当てはまったために,がぜん注目されました。ティティウスの式では,実は火星と木星の間に抜けがあり,その間に惑星が存在するはずである,となっていました。そこで,火星と木星の間に存在するであろう惑星の捜索がされることとなりました。

 その結果,今から約200年前に,火星と木星の間に存在している天体(セレス)が発見されることになります。火星と木星の間には一つの惑星が存在した,めでたしめでたし,と思った矢先に,二つ目の天体(パラス)が発見されました。フレデリック・ウィリアム・ハーシェルは,パラスが発見されたその年にこの二つの天体の大きさを測定し,月より小さな天体であることを見いだしました。ハーシェルは,この二つの天体がその当時発見されていたほかの七つの惑星とは同じでないと考え,まるで恒星のように点に見える星,つまり星もどきの惑星だということで,「アステロイド(日本語では小惑星という訳)」と名前を付けました。その後,3番目にジュノー,4番目にベスタが発見され,これらの四つの星は惑星というよりは,むしろ惑星の破片であると考えられるようになりました。そして破片ならもっとたくさんあるだろうと考えられ,小惑星の捜索が現在に至るまで続けられています。現在時点で,軌道が確定しているものだけでも,小惑星は12万弱発見されています。

 地球型惑星の内部は金属コア・マントル・玄武岩質地殻といった層構造に分かれていますが,内部が融けて層構造になる前は太陽系形成初期にできた物質で構成されていたと考えられております。ほとんどの小惑星は,惑星の破片というよりはこの太陽系形成初期にできた物質の生き残り,と現在考えられています。
 しかしながら4番目に発見された小惑星ベスタは,実は大多数の小惑星とは異なり,内部に層構造を持つ,まるで地球型惑星のような天体なのです。しかも,金属コア・マントル・玄武岩質地殻といった層構造を現在も持っている小惑星は,ベスタのみと考えられています。ベスタは,その大きさが小さかったために,惑星になれなかった惑星,ともいえるかもしれません。

 ベスタの名はローマ神話の竈の女神ベスタに由来していますが,内部に火を宿す竈の女神の名を,その天体内部が一度融けたであろう小惑星に付けたのは,命名者である(電磁気学のガウスの法則で有名な)カール・フリードリヒ・ガウスの先見の明でしょう。神話ではこの女神は自らの子供はもうけずに,孤児や迷子の保護者であったともされていますが,小惑星ベスタは自身の由来であろう小さな小惑星群とグループを成しており,この点においては残念ながら神話通りではなかったといえます。10年ほど前にハッブル宇宙望遠鏡がベスタ表層を観測(図1)して,表層に巨大なクレーターを発見していることも,上記のことを後押ししております。ベスタから放出されたであろう破片の一部は地球の近くにもやって来ており,その一部は隕石として落下しているであろうことが考えられ,実際にベスタ由来と考えられる隕石も見つけられております(図2)。そういう意味では,ベスタは隕石の故郷とはっきりと同定されている天体の数少ない例の一つでもあります。


図1
図1 左上: ハッブル宇宙望遠鏡で観測された小惑星ベスタ
右上: ハッブル宇宙望遠鏡の観測から作られた形状モデル
下 : 形状モデルに地表の高さを色で表している。赤系は高度が高く,青系は高度が低い。
©NASA


図2
図2 ベスタから来たと考えられている隕石
©NASA

  ベスタはこれまでに,考えられる観測がほとんど行われ,すでに調べ尽くされた感もありますが,人間は知れば知るほどまた知りたくなるという性を持っているようで,NASAは,Dawn計画にて探査機をベスタ(とセレス)に送り込み,詳細に調査しようとしています。この惑星になれなかった天体ベスタは,今なお私たちを魅了し続ける女神のような天体ということなのでしょう。

(はせがわ・すなお)