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ISASコラム

9人目:銀河系の妹弟たち

(ISASニュース 2005年8月 No.293掲載)

図1
図1 大マゼラン星雲(右)と小マゼラン星雲(C)NOAO/AURA/NSF

「皆さん,こんにちは」

「私の名前は,大マゼラン星雲」

「僕は,小マゼラン星雲」

「私たちの名前は,1520年ごろに世界一周の探検をして,初めて私たちのことを記録に残したマゼランさんからもらったのよ。南半球からしか見えないので,日本の皆さんにはあまりおなじみではないけど,天文学者の皆さんは,はるばる私たちに会いに来てくれたりするわ」

「僕たちは,地球のある銀河系の妹,弟だといわれているんだ。銀河系お兄ちゃんはとっても優しくていつも遊んでくれるけど,とっても大きいから,いつも僕らはぶんぶん振り回されちゃうんだ。そうやって遊んでもらうと,いっぱい星ができるといわれているんだよ」

「こう見えても,私たちは天文学にいっぱい貢献しているの。例えば,遠くの銀河までの距離を測ろうとするでしょ。もちろん物差しなんて届かないから,天文学者はいろいろな工夫をするの。1912年に私たちの観測をしていたリービットさんが,「セファイド型」って呼ばれている変光星が,明るい星ほどゆっくり変化することを発見したの。これを応用するとね,遠くの銀河にあるセファイド変光星の本当の明るさが分かるので,見かけの明るさと比べれば,その銀河までの距離を測ることができるの。この大発見が,宇宙の構造や生い立ちを研究するきっかけになったのよ」

「天文学者の皆さんには,僕らみたいにすぐそばにいる銀河,っていうのは魅力的なんだって。銀河って,その中でガスが集まって星が生まれたり,星が死ぬときにガスをまき散らしたり,いろいろな活動が起きている一つの集まりでしょ。だから,銀河のどういう場所で何が起きて,それによって銀河がどのように成長していくのかを詳しく調べるのに,とってもいいんだって。僕たちは銀河系お兄ちゃんに比べて,炭素や酸素や鉄など,星で作られる元素が少ないの。お兄ちゃんも,ずっと昔の子供のころは,もしかしたら僕たちみたいだったのかもしれない。それに,地球から僕らまでの距離はよく分かっているので,中にある星一つ一つの本当の明るさが分かるんだ。星の一生の研究をするときに,星の明るさが分かるのはとっても重要なんだって。しかも,僕らの中にはいろんな年齢の星がいるから,研究にとっても役に立っているんだよ」

「そうそう。お姉さんには忘れられない思い出があるの。地球では今から18年くらい前だったかしら。私の中の星の一つが,大爆発を起こしたのよ。地球の人たちは超新星1987Aって呼んでいたわよね。地球で天文学が発達してから,一番近くで起こった超新星なんだって。それで,超新星爆発の研究や,爆発前の星の生い立ちとか,たくさんの新しいことが分かったそうよ。ちょうど打ち上げたばかりの日本の衛星「ぎんが」が,この超新星からのX線を世界に先駆けてとらえたのよね。そして,たまたま観測を始めたばかりのニュートリノ観測施設「カミオカンデ」が,この爆発からやってきたニュートリノを観測して,とても貴重なデータが得られたの。それで「カミオカンデ」を作った小柴先生は,2002年にノーベル賞をもらったのよね。今,この超新星の後にはきれいなリングが見えるのよ(図2)」


図2
図2 超新星1987Aの爆発後に現れたリング。
爆風と星の周りのガスとの衝突で光っている。ハッブル宇宙望遠鏡が2004年に撮影。
(C)NASA, P. Challis, R. Kirshner(Harvard-Smithsonian Center for Astrophysics) and B. Sugerman (STScI)

 「天文学者の皆さんは,僕らのことをもっともっとよく知りたいみたい。僕らのよく見える南半球には,ヨーロッパの人たちが作った大望遠鏡VLTとか,日本の人たちの観測施設もあるんだ。来年打ち上げられるASTRO-F衛星や,アメリカのスピッツァー宇宙望遠鏡も,僕らを詳しく調べる計画があるし,数年後にはALMA電波望遠鏡がチリに作られる。皆さん,これからも僕らのことをよろしくね」

(やまむら・いっせい,いた・よしふさ)