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ISASコラム

第12回:運用と施設設備(4)発射装置 小野 哲也 イプシロンロケットプロジェクトチーム

(ISASニュース 2012年12月 No.381掲載)

 イプシロンロケットでは、内之浦宇宙空間観測所の既存設備を最大限活用することを地上系の整備ポリシーの一つとしています。発射装置(M整備塔/ランチャ)も例外ではありません。既存のM型ロケット発射装置は、歴代のMシリーズの組立て・発射に使用され、数々のロケットの旅立ちを見送ってきた内之浦のベテラン設備です。今回は、この歴史ある発射装置をイプシロン対応に改修する概要を、代表機能の紹介とともに説明します。

ロケット組立て支援機能

・天井クレーンの増強
 M-Vの1段ロケットは2セグメント分割方式でランチャ上へセットしていましたが、イプシロンの1段ロケットは1本モノです。これにより、ロケットつり上げ質量がおよそ倍になるため、整備塔の天井クレーンを50トンから「100トンクレーン」へ換装します。新しい100トンクレーンでは低速モードの巻き上げ・巻き下げ速度を大幅に小さくすることで、ロケット・ペイロードのハンドリング加速度を緩和しています。

・作業フロアの追加
 イプシロンはM-Vに比べ、全長が約5m短いため、整備塔内でロケットにアクセスするフロアレベルが異なります。そのため、既存の6、7、8階上に新たに「アクセスフロア」を整備し、各作業に対応できるようにします。


ロケット・ペイロード環境保持機能

・空調移動車の使用
 イプシロンでは、ペイロードの環境向上を目的に、M組立室からM整備塔への頭胴部の移動時にも連続した空調送風を行います。これを実現するため、空調装置は自走式のフェアリング空調移動車(空調車)No.2を使用します。空調車は頭胴部のつり込み以降も使用できます。空調車は12月に種子島から内之浦へ輸送します(ちなみに空調車No.1は種子島のH-IIA/Bで使用しています)。

ロケット垂直発射機能

・ランチャブーム俯仰機構の改修
 イプシロンは歴代Mシリーズの斜め発射方式から一転、垂直発射方式を採用しています。ランチャブームは、打上げ前のランチャ旋回後にロケットと反対側に5度退避し、所定のパッドクリアランス(風などの外乱でブレながらリフトオフしてもランチャに接触しないための距離)を確保します。ロケットと反対側に5度傾けることは現状のランチャではできないため、リンクポイントの変更や俯仰シリンダのストローク調整を行います。

・機体転倒防止装置の整備
 イプシロンでは垂直発射方式への変更に伴い、ロケット自立期間中に地震が発生した場合に対応して、転倒を防止する目的で「機体転倒防止装置」を整備します(Mシリーズではロケットがランチャブームのガイドレールにぶら下がっていたため必要ありませんでした)。機体転倒防止装置は1段ロケットの下端フランジとそれに接するランチャの「シュラウドリング」を油圧シリンダでクランプ支持する方式です。これにより、前述のランチャブームの挙動に関係なく、支持することが可能です。機体支持装置は打上げ5分前に発射管制室からの遠隔操作で解除する計画です。


アンビリカル離脱機能

・フライアウェイ方式のアンビリカルシステムの整備
 「アンビリカル」はロケットと地上系をつなぐ「へその緒」という意味です。フェアリング系のアンビリカルは、Mシリーズでは打上げ5〜10分前に空調ダクトを切り離していましたが、イプシロンではロケットの上昇とともに離脱するフライアウェイ方式としました。「キャッチングネット」をランチャブームに設置し、離脱したアンビリカルキャリア(地上に残る側)を優しく受け止めます。


遠隔操作監視機能

・遠隔操作監視端末の整備
 イプシロンでは、宮原地区の発射管制室(新築)から打上げ時の発射装置を操作監視します。この「遠隔操作監視端末」にはタッチパネルを採用しました。ATMでお金を下ろす感覚で発射装置の操作監視が可能です。


打上げ時燃焼ガス偏向・排出・音響低減機能

・煙道の整備
 イプシロンでは、リフトオフ直後の音響環境を低減し、ペイロードの乗り心地を改善します。そのために、「煙道」というトンネルを整備します。煙道はランチャ側煙道と地上側煙道に分かれ、ランチャ旋回後の発射位置で重なり合い、所定の形状を形成します。煙道形状の設計に当たっては、能代ロケット実験場で小型モータを用いた音響環境計測試験を行いました。

図 イプシロン用に改修後の発射装置


(おの・てつや)