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第6回:ロケットとの通信
(ISASニュース 2007年2月 No.311掲載)
ロケットの電気屋さん。今回は、ロケットとの通信についてお話しします。
ロケットが正常に飛んでいるかどうかや、搭載機器の状態を、電波で地上に知らせる装置を「テレメータ」と呼んでいます。M-Vロケットには5台のテレメータが搭載されています。ロケットの1段目に1台、2段目にカメラを含めて3台、そして3段目に1台が搭載されていて、それぞれの段の飛翔中の状態を時々刻々知らせてきます。ロケットが決められた方向に飛んでいるか、ロケットのエンジン(モータ)の状態は正常か、ロケットの切り離しは正常に行われたか、といった150種類ものたくさんの情報(データ)を送ってくるのです。搭載カメラでは、1、2段目のロケットの燃焼炎の状態や切り離し、そして3段目ロケットの切り離し・点火の画像を送り、目で直接その状態を確認できるようになっています。
ロケットから送られてくるテレメータ電波は、打上げ場のある鹿児島宇宙センター内之浦宇宙空間観測所で受信され、「テレメータセンター」と呼ばれる場所でコンピュータ画面やペンレコーダにデータが表示されて、ロケットの飛翔中の状況が確認できるようになっています。このテレメータセンターで集められたデータは飛翔保安の部署へ送られ、ロケットが安全に飛んでいるかどうか監視されます。もし、ロケットが異常な飛行をしたときには、ここからコマンド(指令)電波が発信され、ロケットを破壊し事故を未然に防ぎます。今まで飛翔中にロケットの破壊コマンドを送ったことは一度もありませんが、打上げ前にはロケットを安全に飛ばすためにいろいろな異常状態を想定した練習が何回も行われています。
先ほどテレメータ電波を内之浦宇宙空間観測所で受信すると書きましたが、実は、ほかの場所でも受信しています。テレメータ電波は、ロケットの燃焼ガスの影響により弱められ、ロケットの真後ろ方向では受信できなくなることがあります。また、地球が丸いことから水平線の向こうにロケットが行くと受信ができなくなります。そのため、ロケットの飛行する途中の何個所かに受信局を設けて、そこからテレメータセンターにデータを送ります。これを「ダウンレンジ局」といいます。M-V-6号機(X線天文衛星「すざく」を打ち上げたロケット)では宮崎、小笠原、クリスマス島のダウンレンジ局を使用してデータを受信しました。M-V-8、7号機(赤外線天文衛星「あかり」および太陽観測衛星「ひので」を順に打上げ)では飛翔方向が違うため、種子島、オーストラリア(ドンガラ局)をダウンレンジ局として使用しました。
内之浦宇宙空間観測所のテレメータセンター
さて、ここでダウンレンジ局について少し紹介します。移動式の宮崎局は、宮崎大学校内(当初は宮崎医科大学、統合により宮崎大学医学部、その後工学部に移る)の敷地をお借りして、毎回ロケット打上げ直前に設営しています。最初のころは、横でヤギが遊んでいるような場所でした。そこから電話回線で、受信データを内之浦のテレメータセンターへ送っていました。小笠原局は父島にあり、実験班員(M-Vロケットの打上げ隊は「実験班」と呼ぶ)は船(小笠原丸)で24時間余りかけて現地に赴きます。局の入り口近くには蛸の木の林があったりします。そんな島の緑の中に、真っ白なテレメータ受信アンテナがあります。クリスマス局は、ハワイの南2000kmに位置する赤道直下の珊瑚礁の島、クリスマス島(キリバス共和国)にあります。椰子の木に囲まれ、珊瑚礁の海が近くに見える、とてもきれいな場所にあります。ここからは通信衛星を介してデータを送ります。オーストラリアのドンガラ局は、米国の受信会社所有の施設で、実際にはこの会社に受信を依頼しています。オーストラリアの西海岸寄り、パースの北300数十kmの草原の中にあります。道すがらカンガルーが遠くに見えたり、オウムのような鳥の群れが道路に戯れたりしています。「ドンガラ」とは、オーストラリア先住民であるアボリジニの言葉で「アザラシの集まる所」の意味だそうです。
少々脱線しましたが、M-Vロケットを打ち上げるためにそれぞれの場所で、遠くは海外でもその電波を受信していること、そしてそのためにロケットの電気屋さんが苦労し、時に喜びを感じながら活躍していることをお分かりいただければ幸いです。
(かとう・てるお)
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