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ISASコラム

第4回:融通の利かない頑固者

(ISASニュース 2006年11月 No.308掲載)

 X−60秒:タイマ点火管制装置起動,X−50秒:タイマスタート,X−30秒:タイマ正常確認,X−15秒:SMRC(ロール制御用固体モータ)点火,X=0秒:ロケット点火……

 ロケットに搭載されたタイマは,すべての点火系を実行します。今回は,そのタイマ点火系について,眠くならない程度に説明しましょう。


タイマ点火系
● タイマ機器
 タイマ系は,タイマ,点火電源,点火電源スイッチ,タイマ信号を受けて火工品に信号を送るリレーボックスからなっています。M-Vロケットの場合は,2段目と3段目の計器部に搭載されています。タイマはX−50秒に自動的にスタートし,1段目ロケット点火から,あらかじめ設定された時間に火工品に信号を送るので,安全性と信頼性が問われます。そのため,タイマ部は3系統にするなど,暴走防止の対策が取られています。

● 点火系
 M-Vロケットの点火系は,火工品と呼ばれる火薬で作動する製品が使われています。M-Vロケットの主な点火項目は,ロケットの点火,各段ロケットや衛星の分離,そしてロケット先端部のノーズフェアリングと呼ばれる衛星を保護しているカバーを開けるのも火工品です。また,ロケット飛翔時に何らかの理由で異常が発生し,ロケットが予定以外の所に落下するおそれがある場合に,地上からのコマンド送信によりロケットを破壊する火工品もあります。これら点火系は,いずれも冗長(2系統)回路として信頼性を確保しています。

● 点火玉
 火工品には点火玉が使われます。点火玉は直径約5mmのロダン鉛系火薬で,その中に白金線が入っており,それに電気を通すと白金が発熱して発火します。そして,点火玉を包んでいる火薬に引火して,火工品が作動します。
点火玉には鋭感型と鈍感型がありますが,宇宙研では470機以上のロケットに鋭感型点火玉を使用しています。その主な理由は,ロケットの分離など同時に多くの火工品を点火する場合は,斉発性(同時発火性)に優れている鋭感型点火玉を直列に接続することにより,点火玉1個の場合と同じ電流で全数発火させることができるからです。その結果,点火電源容量は小さく,点火系の計装配線が容易で,安価となります。これは日本独自の方法です。


点火タイマ管制装置

打上げ直前のRS練習
 これは,打上げと同じ体制で行う,X−60秒から打上げまでの緊急停止(エマスト)練習のことで,タイマを止めて打上げを中止します。RS班が心を鬼にして,いじわるな際どい不具合の問題を出し,それに対して各担当者がエマストの判断をするもので,実験班の冷静で敏速な判断が問われます。本番以上に神経を使うきつい練習が数日行われます。

点火系導通チェック時の安全確保
 点火系導通チェック時には,まず射場(M台地)を立ち入り禁止として,タイマ班と点火管制班は,M-Vロケットの点火電源スイッチ,安全スイッチ,点火系安全コネクタ,SAD(Safe and Arm Device:点火系安全装置)の安全を確認します。その中で,点火系安全コネクタとSADの接続はロケット班が担当しています。

 次に,点火系の操作ラインをON/OFFする中間スイッチキーを安全側に切り替えて,現場作業者が持参しています。現場作業者から見れば,唯一自分で安全を確保できる手段ということになります。このように,同じ作業をタイマ班,ロケット班,点火管制班の立場から協力して行い,安全を確保しています。

 点火系作業終了後,点火系導通チェックに入ります。問題なければ角度セット,タイマ電源ON,搭載機器動作チェック,点火系発射側切り替え,そして打上げとなります。


融通の利かない頑固者
 人為的なミスや機器の故障が複数発生しても大丈夫なように何重にも安全策が取られていますが,油断は禁物です。最終的に安全を守るのは人間です。事故はいつでも起こる可能性があることを肝に命じて,点火系担当者は慎重に確実に作業を行います。

 点火系作業は,一般的な作業と比べて制約が多く,そこまでやるの? と思うかもしれません。それでも融通の利かない頑固者になって,基本的には安全対策や作業手順を先代から引き継いできました。それは過去50年間無事故でやってきた成果であり,タイマ点火系作業者の誇りとなっています。

(なかべ・ひろお)