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ISASコラム

第3回:ロケットの電気屋さんの仕事(その3)

(ISASニュース 2006年10月 No.307掲載)

 ロケットは,打上げからある決められた時間がたつと第1段モータを切り離したり,第2段モータに点火したりといった具合に次々と予定が組まれており,これを火薬などを利用して実行する。ちょっとでもタイミングが狂えば,大変なことになる。いったい誰がそれを淡々とこなしているのか? それは,ロケットに搭載されたタイマー装置である。このタイマー装置には実にたくさんのイベントが書き込まれており,打上げの少し前からスタートして,あとは時間通りに着々とロケット搭載機器や火薬に指令を送る。タイマーがちゃんと予定通りに仕事をこなせるか,飛ばす前に何度もチェックを行う。これを担当するのがタイマー班と呼ばれる電気屋さんたちだ。タイマーからの指令がきちんと届いているかどうかを入念にチェックする。

 ロケットモータがきちんと予定通りに燃えているか,仕組んだ動作が予定通り実行されたか,各機器の動作状態は果たして正常か,温度が異常に高くなっているところはないか――いろいろ心配なところがたくさん出てくるので,ロケットが飛んでいる間にこれらをできるだけ早く知りたい,という要求が出てくる。そのために,いろいろなセンサーを組み込み,それを電気信号に変える計測装置が必要だ。たくさんあるセンサーの一つ一つについて,その癖を調べて正しい測定値が出るようにしなければならないし,線もたくさん張り巡らさなければならないので,非常に根気の要る仕事だ。この仕事をする電気屋さんが計測班だ。

 もう一つ,忘れてはならない大事な装置がある。いくらロケットの状態を一生懸命計測しても,その情報が地上にいる人たちに伝わらなければ意味がない。そこで各搭載機器からの情報をかき集め,それらを束ねて電波で地上に降ろす必要がある。この役目を担うのがテレメータ送信機と呼ばれる装置で,M-Xロケットの場合には1段目に1台,2段目に3台,3段目に1台の計5台ものテレメータ送信機が載っている。これらの電波を地上にあるたくさんのアンテナで追いかけ,電波を解読し,それぞれの情報を見たい人たち全員に配る。受信した信号は後で再生できるように記録もせっせと取る。そういったサービス業のかがみみたいな電気屋さんたちがいる。テレメータ班と呼ばれる人たちだ。搭載されるテレメータ送信機だけでなく,地上の受信アンテナ,受信・復調器,データレコーダ,多数のコンピュータ等々,お守りをしなければいけない装置がたくさんあり,準備も含めるとかなり骨の折れる仕事である。


電気屋さんの目視検査を受けるM-Xロケット第3段計器部(宇宙空間での熱対策のため,搭載機器は金色の断熱材で覆われたり,白色塗装される)

 送信機や受信機を搭載しているからにはアンテナも必要だ。ロケットのアンテナはものすごい勢いで飛んでいく際に,空気の摩擦で高温にさらされる。また,だんだん高度が上がり空気が薄くなっていくと,途中で放電しやすくなる。高温でも溶けず,放電しにくいアンテナを作る,それがアンテナ屋さんと呼ばれる電気屋さんたちだ。M-Xロケットの場合,レーダー班の一部の人が兼務している。

 最後に,これはあまり考えたくないことだが,ロケットが予定通りに飛ばなかった場合,万が一それが人のいる場所に落ちてきたら大変な惨事になる。ロケットがこれ以上姿勢を修正しても危険を回避することは不可能と判断される場合には,速やかにロケットに破壊コマンドやシークエンス停止のコマンドを打たなければならない。これを行うのがRS(レンジ・セーフティ)班と呼ばれる人たちだ。彼らはレーダー班,テレメータ班といった電気屋さんたちと密接なつながりを持つが,ロケットの仕組みに関する豊富な知識も兼ね備えていなければならない。ロケット屋さんと電気屋さんの両方の顔を持った人たちである。

 3回にわたってロケットの電気屋さんたちを簡単に紹介した。誌面の都合で漏れてしまった人たちもいるが,ご容赦願いたい。次回からは,それぞれの専門家からもっと掘り下げた解説をしていただこうと思う。

(やまもと・ぜんいち)