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ISASコラム

創造的な研究を進めるためには組織の管理が重要! 橋本樹明
宇宙機応用工学研究系 研究主幹・教授

(ISASニュース 2013年8月 No.389掲載)

 2013年2月号の徳留真一郎先生の記事、拝見しました。提起された問題点は、大きな組織で仕事が軌道に乗ると、ささやかな成功体験をよりどころに既存形態の維持が優先され、創造的な仕事ができなくなる、ということでした。その通りであると思いますが、ではどうすればよいかという点に関しては、相反する観点が出てくると思います。私は宇宙研に着任して23年、主に科学衛星の姿勢制御系に関する研究開発を担当してきました。最近ではJAXA月・惑星探査プログラムグループを併任し、月着陸探査計画の検討を行っています。また小惑星探査機「はやぶさ」プロジェクトにも関わっていた関係から、取材や講演会などで研究分野以外の方々とお話しする機会も増えました。その経験も踏まえて意見を述べさせていただきます。

 多くの研究者が「これこそが重要」と考えて研究開発の提案をしている中で、限られた予算の中からどれを選ぶかというときには、実績で選ぶことが公平と考えられます。そうすると「新しい創造的な研究」というのは採用されにくくなります。特に宇宙開発分野では、成果が出るまでに10年、20年かかるので、ささやかな成功体験をよりどころに、その分野を確実に育てていくしかない、という側面もあるでしょう。

 研究開発組織は、本来ならば「実績がないけど、将来有望な研究」というのを選んで注力していくべきでしょう。しかし、それは誰が判断するのか。判断する人の個人的趣味で選ばれることはないのか。ということで、有識者を集めた「○○委員会」がつくられ、委員会の結論を別の観点から議論する上位の「○○審査会」がつくられ、ということになります。そうすると、どんどん角が取れて、真ん丸の研究だけが残ります。先日、放送作家の秋元康さんがテレビで「記憶に残る幕の内弁当はない」と 言われていました。いろいろな人の意見を聞いて直していったら、全然つまらないものになってしまう。自分の良いと信じることをやれ、ということでした。しかし、国の予算で実施する我々の研究の場合、国民や政府に納得していただく必要があります。国民の皆さまから多くの支持をいただいた「はやぶさ」にしても、プロジェクト開始時には「小惑星なんかに行って何の意味があるのか」とか「こんな計画、できるわけないだろう」と言われた記憶があります。逆に考えれば、どうして当時の宇宙研執行部や文部省はこの計画を認めたのか、ここに解決の糸口があるかもしれません。

 とんがった革新的な研究を生み出すには、選定・審査の仕組みはなるべく少人数、なるべく階層を少なくする必要があります。そのためには、選定・審査する委員会などが、宇宙研内はもとより、JAXA内、政府、国民に対して絶大な信頼を得て、フリーハンドを持っていなければなりません。幸い、宇宙研は、これまでの成果に関しての評価は高いと思います。最近、計画の中止、コスト増加などの問題があり、信頼を失いかけているところもありますが、そこは早急に対策を取って改善していくべきです。その上で、今後の宇宙科学について戦略的に考え、ボトムアップ提案を競争的に選んでいく部分と、トップダウンで力を入れていく部分をバランスよく実施していく必要があると思います。

 管理業務が肥大化していくということは、業務の管理がちゃんとできていない証拠でもあります。いわゆる研究開発に限らず、管理業務においても業務を効率化していくべきと考えます。例えば、Aさん(あるいはA委員会)が「こうするべき」とした判断を上位のBさん(あるいはB委員会)が逆の結論を出すのであれば、研究当事者はどうしたらよいのか分からなくなりますし、審査にかかった時間も資料などの準備にかかった時間も無駄になってしまいます。一つの観点で判断するのは一ヶ所にすべきです。なお、研究としてはこうする方がよいのだが、予算の制約、契約の透明性、情報セキュリティなどを考えると、現計画では問題あり、ということはあると思います。このような別の観点での評価は必要ですが、その場合にも、できるだけ並列に(同時に)判断を行って、後戻りが少ないようにすべきです。信頼性設計と同様に、なるべく直列システムを減らして並列システムとすべきと思います。

 以上、私の意見をまとめると、二つでしょうか。一つは徳留先生と同意であり、創造的な研究をどんどんやっていく。そのために、少人数の信頼されたメンバーが研究提案を選定し、真に「できる」メンバーに任せていく。もう一つは、徳留先生のご意見と逆に聞こえるかもしれませんが、宇宙研が十分な信頼を得て、かつ効率的に研究を進められるように、管理体制の改善・強化も重要ということです。

 読者の皆さまには反論もおありかと思います。ご意見をお待ちしています。 

( はしもと・たつあき)

誌上討論シリーズは、最初に議論の出発点となる問題を提起し、これについて読者の皆さまからご意見をお寄せいただきながら、複数号にわたって議論を深めていく企画です。
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