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ISASコラム

第4回
科学観測のためのポリエチレン気球

(ISASニュース 2002年12月 No.261掲載)

科学観測のための飛翔体の一つにポリエチレン気球があります。500kg程度の観測器を軽々と持ち上げ5m/sec程度のゆっくりとした速度で大空に上昇する姿は、衛星を搭載したロケットとはまた違った力強さがあります。通常の気球は葉の形をした厚さ20μm(0.02mm)のポリエチレンフィルムを熱接着により貼り合わせて作りますが薄いフィルムには大変気を遣う作業になります。気球の放球作業でも同じことが言えます。10年程前から10kg程度の軽い観測器を、40kmを越え50km以上の高度に飛翔できる科学観測用気球の開発(図1)を行ってきました。図中BTはフィルム厚が5.8μm、BUは3.4μmで製作した気球で各々薄膜型高高度気球、超薄膜型高高度気球と呼んでいます。

高高度気球が科学観測に使用できる条件に、
(1)気球本体の重量を如何に軽くすることができるか、
(2)気球環境に耐えうる大容積の気球を高い品質管理の下で安定に製造できるか、
(3)極めて薄いフィルムでできた気球に損傷を与えずに放球できるか、
という問題を解決する必要がありました。
(1)はメタロセン触媒を用いたポリエチレン生成法を使い、現在厚さ3.4μmのフィルムまで国産化しています。(2)は日本での気球製作事情を考慮し、操作性の面でも単純化した連続接着可能なベルトシーラという独自の気球製作装置(図2)を開発しました。この装置で製作した容積60,000m3の超薄型高高度気球が2002年5月23日に三陸大気球観測所から放球され、到達高度53kmの世界最高高度記録を達成しました。

(3)はエアーバッグを使った放球装置(図3)を開発しました。この方式はエアーバッグの圧力で気球の全浮力を保持する方法で、気球フィルム面をほぼ均一な力で保持します。この放球装置は気球を地上に折り畳んだ状態で放球するスタティック放球法や気球の全長を伸ばした状態で放球するダイナミック放球法のどちらにも用いることができます。放球装置により総浮力50kgのU60-1、総浮力110kgのBT120-1等多くの高高度気球を放球し飛翔に成功しています。

また新しい放球方式として、パッキング放球法を開発しました。ガスを入れる気球の頭部以外の気球部分を畳んで風呂敷にパックした状態のまま放球し、上空でパックした気球部分を伸長します。容積5,000m3の気球は長さ33mですが、パックした気球はちょっと大きめのゴム気球程度の感じです。従って狭い場所での放球が可能で、しかも2〜3名の少人数で簡単に放球を行うことができます。パッキング放球法は気球放球のための特別な技術、経験等は必要ないため、だれでも放球ができ気球観測を行う上での大きな利点となります。例えば南極や北極といった厳しい環境下での高高度気球の放球には最適な放球法と言えます。高度50kmを越える高高度気球が科学観測用気球として開発されたことは、これまで小型ロケットによる中間圏までの観測が気球でも可能になったことを意味します。気球は一定の高度に浮遊することができ、長時間の観測ができることも大きな利点です。観測装置の小型・軽量化が可能になってきている現在、科学観測用高高度気球が多くの「宇宙の謎」を解明する飛翔体として活躍することでしょう。

(松阪 幸彦)