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ISASコラム

第13回:紫外線で金星の雲を追跡する

(ISASニュース 2011年5月 No.362掲載)

 金星探査機「あかつき」が打ち上げられて約1年が経過します。金星周回軌道投入には失敗しましたが、今も元気に太陽系内を飛翔しています。この記事が発行されるころには、地球から見て太陽の向こう側を飛翔していることでしょう。今回は、そんな「あかつき」に搭載された紫外イメージャ(UltraViolet Imager:UVI)を紹介します。

紫外線の特徴

 紫外線というと、あまり仲良くなりたくないと感じる方も多いと思います。紫外線は、可視光線で最も波長が短い紫色よりさらに短波長の光です。太陽光線に含まれていますが、地球大気にほとんどが吸収され、地上には数%しか降り注ぎません。しかし、近年ではオゾン層の減少などの影響で地上まで降り注ぎ、健康に悪影響を及ぼすと危惧されています。その一方で、殺菌消毒や蛍光灯での利用など、有用な特徴も持っています。科学観測においては重要な観測波長帯の光で、大気に吸収されやすいという特徴を逆に考えると、宇宙空間においてこそ観測できる光であるため、多くの科学衛星に紫外線観測機器が搭載されています。特に、紫外線画像の濃淡からの大気分布の導出や、観測光の波長からの大気成分調査を目的として、これまでにも多くの地球・惑星大気観測がなされています。

 金星大気の最初の紫外線観測は、地球上から行われています。この地上観測によって、秒速約100mものスピードで雲が金星上空を動いていることが確認されました。1973年に打ち上げられた「マリナー10号」は、水星に向かう途中、搭載カメラの紫外線撮像用フィルターを使い金星を2次元撮像しました。可視光で観測すると一様に見える金星の雲ですが、紫外線で観測すると非常に高コントラストの濃淡模様が存在することが発見され、当時の研究者を驚かせました。現在でも、雲の運動を捉える鍵となる観測は、高コントラストの紫外線観測であると考えられています。


UVIによる金星の紫外線観測

 これまでの金星雲の紫外線観測は、観測しやすい波長である365nm(ナノメートル、1nm=1mmの100万分の1)で実施されてきました。この波長帯の光の濃淡模様は大気成分による吸収に起因するものだと考えられていますが、その化学物質は未同定です。そこでUVIは、別の波長283nmでの観測も同時に実施できるように設計されています。この波長帯の光は二酸化硫黄(SO2)によって吸収されやすく、その濃淡はSO2の密度分布を反映することになります。SO2は金星の雲の主成分である硫酸から光化学的に生成される材料物質であり、雲形成過程の理解の鍵を握る計測ができると期待しています。

 UVIが観測する光は太陽光が金星雲で反射した紫外線で、金星昼側面の雲分布を2次元画像として測定します。連続観測を行った画像をつなぎ合わせることで動画を作成し、散乱光の濃淡模様を大気運動のトレーサーとして利用することで、雲頂高度での水平方向の風速場を導出することができます。また、283nm画像のSO2と365nm画像の未同定吸収物質の空間分布との関連性は、雲物質同定や雲粒子の理解につながり、さらには大気の鉛直運動を導出するためにも有効な観測データとなります。


図1 打上げ直後にUVIが撮像した地球
(露出時間128ミリ秒)
図2 UVIが撮像した金星
(露出時間46ミリ秒)


 UVIは打上げ直後に地球の、金星離脱直後に金星の撮像を行いました。図1と図2に、それぞれ地球と金星の画像を実際の大きさの比で示します。地球画像は約25万km、金星画像は約60万km離れた場所から撮像したものです。このように並べると、大きさ・質量・公転軌道など非常によく似た特質を持つ二つの惑星の違いが分かるでしょうか? 露出時間の差(雲での紫外線反射率の差が一因)、リム(惑星の外縁)の大気の広がり方、反射光強度の緯度変化など、細かな違いが見て取れます。UVIの観測できる昼面が小さいので画期的な結論を得るのはこれからですが、金星周回軌道投入に成功してさらに接近した連続写真で雲の運動を捉える日が楽しみです。

 「あかつき」も、プロジェクト外のたくさんの方々にも応援いただいていることに大変感謝しているようです。運用に携わるプロジェクトメンバーにできるのは、決して諦めないこと。金星周回軌道から金星撮像ができるその日まで。

(やまざき・あつし)