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ISASコラム

第9回:「あかつき」の熱システム

(ISASニュース 2010年12月 No.357掲載)

 金星は太陽に近い惑星なので、「あかつき」が金星に近づくほど太陽の光が強くなります。宇宙機の温度は太陽の光の強さに大きく依存します。そのため、地球の近くを飛んでいるときに比べ、金星周回軌道上での「あかつき」の温度は当然高くなることが予想されます。今回は、「あかつき」の熱システムについてのお話です。

熱システムとは

 「あかつき」には、さまざまな電子機器が搭載されています。これらの装置は、地球上と同じような温度環境で動作します。さらに、それぞれ動作する温度範囲が決まっています。そのため、地球から金星への飛行中、また、金星周回軌道上でも、それぞれの機器が希望する温度になるようにコントロールすることが必要となります。そこで、断熱、放熱、熱拡散などを目的とした熱制御材と呼ばれる材料を「あかつき」の外面や内部の最適箇所に装着するとともに、ヒータをたいてそれぞれの機器の温度を適切にコントロールしています。温度コントロールは、熱くなったら冷やすのではなく、熱くならないように冷やしておき、冷え過ぎないようにヒータで温めるという方法が基本となります。

熱制御材料

 「あかつき」の外観は、おおよそ金色の部分と銀色の部分に分かれています(図1)。金色の部分は、MLI(Multi-Layer Insulation)と呼ばれる断熱材です。断熱材の役割は、熱を探査機内部に伝えないこと、また内部の熱を探査機外部に逃がさないことです。銀色の部分は、OSR(Optical Solar Reflector)と呼ばれる放熱材です。宇宙空間は真空なので、熱は赤外線で伝わります。OSRの役割は熱を宇宙に放射することです。「あかつき」には、ガラスでできたOSRと高分子材料でできたOSRの2種類が使われています。前者は平らな面に、後者は曲面や形状が複雑な面に使用されています。

図1 クリーンルームで最終点検中の「あかつき」


 これらの熱制御材料は宇宙に露出されているため、放射線(陽子、電子)や紫外線が当たり、劣化してしまいます。劣化すると、太陽の光を吸収しやすくなります。そうなると探査機の温度が上がってしまいます。材料の劣化を防ぐことはできないので、劣化した状態でも熱設計が成立するようにしなければなりません。そこで、これらの材料に対し「あかつき」の運用年数分の劣化量を調べ、その値を設計に反映しています。

「あかつき」の熱環境

 図2に「あかつき」が受ける太陽光強度を示します。打上げ後、いったん太陽から離れるため太陽光強度は減少していますが、地球近傍ではおよそ1300W/m2程度です。金星に向かうにつれて太陽光強度が増加し、金星軌道上では約2倍の2600W/m2となります。さらに、金星は太陽光の反射率が高く、金星に近いところでは金星からも強い太陽光の照り返しがあります。このように熱環境が大きく変化する「あかつき」の温度コントロールをいかにシンプルに実施するかが、熱設計のポイントとなります。

図2 「あかつき」が受ける太陽光の強度(計算値)


「あかつき」の温度

 太陽に近づくにつれ、衛星全体の温度が上がり始めています。10月末時点において、熱システムは正常で、「あかつき」の各部は設計通りの温度になっています。また、太陽から一番離れた最低温度となる7月上旬付近においてもヒータ電力が不足することなく、第1関門は無事クリアしました。もちろん、一番熱くなる金星軌道上でも、許容温度範囲の上限を超えることがないように設計されています。

(たちかわ・すみたか)

「あかつき」は2010年12月7日に金星周回軌道に投入される予定でしたが、探査機システムの不具合により十分な制動をかけることができず、金星を再び離れて太陽を回る軌道に入りました。「あかつき」は6年後に再び金星に接近します。現在、原因の調査を進めつつ、6年後の再観測の可能性を検討しています。