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ISASコラム

第7回:金星遷移軌道上での姿勢制御系確認

(ISASニュース 2010年10月 No.355掲載)

 「あかつき」には金星大気の観測を目的として5台のカメラが搭載されています。カメラの希望する方向に探査機を向けることが姿勢制御系の主な役割ですが、金星に到着する前にもさまざまな確認を行います。

打上げから臼田第一可視まで

 「あかつき」は打上げ後間もなくH-UAロケットの2段目エンジンの再着火によって、金星に向かう惑星間軌道へ投入されました。分離後すぐは地上局との通信を行うことができないため、事前に自動で動作する機能を備えています。これを自律機能といいます。分離から順を追って記述すると、分離時の衝撃による姿勢の乱れを抑制する、太陽電池パドルを展開して太陽の方向に向け電力を確保する、観測カメラは太陽光を嫌うのでカメラに太陽光が入らないように姿勢を変える、といった機能があります。地上局からの通信が確保された後は、星センサによる高精度な三軸方向の姿勢決定、ホイールによる三軸方向の姿勢制御と、引き続き機器の立ち上げや機能確認が行われます。こうした機能確認を経て、「あかつき」は初めて金星へと安定した航路を取れるのです。

太陽光圧の計測期間

 「あかつき」は金星に到着するまでの間、太陽光による力を受けます。これを太陽光圧といい、とても小さい力なのですが、長期間受けているとその力は徐々に蓄積され、姿勢の乱れを引き起こします。こうした力を外乱といい、金星に到着した後は太陽光圧以外に、金星からの重力や金星大気による摩擦といった外乱も考えられ、これらをすべて打ち消す必要があります。そのため、太陽光圧の影響が大きい金星に向かう遷移軌道上で、その影響を調べておく必要があります。

 太陽光圧は、太陽に向かう面積と、光圧中心と「あかつき」の重心からの距離の積で決まります。「あかつき」は本体の姿勢を三軸の回転方向に、また2枚ある太陽電池パドルの回転角度をそれぞれ個別に設定することができます。これを組み合わせた合計12パターンで、太陽光圧が「あかつき」の姿勢にどれくらい影響を与えるのかを測定しました。

 蓄積された外乱はホイールの反力で打ち消します。ホイールは「あかつき」の太陽電池パドル方向に最大角運動量を持つように回転数を保っています。そのため、外乱の「あかつき」の姿勢に対する方向から、ホイールの回転数は徐々に上昇、または減少していきます。ホイールはその回転軸受けを摩擦力で支えているため、なるべく一定回転速度に保っておきたいという要望があります。そのため、外乱が蓄積し過ぎるとホイールの性能として打ち消すことができなくなるため、スラスタを使って角運動量を放出し、ホイールの回転数を定期的に調節する必要があります。これをアンローディングといいますが、スラスタ噴射により金星に向かう軌道が少しずつずれてしまう可能性があります。そのためにも遷移軌道上で太陽光圧の影響が小さい姿勢を探しておくことは重要です。


修正ΔV(OME試し噴き)

 6月末には、500N軌道投入エンジン(OME)を約13秒噴射して軌道修正を行いました。金星への到着は12月の初頭を予定していますが、非常に速い速度で飛行しているため、そのままでは金星を通り過ぎてしまいます。そこで、今度はOMEを噴射して減速する必要があります。自分の半分以上の重さの燃料を最大で1000秒近くかけて噴射します。この大幅な減速により、ようやく「あかつき」は金星を安定して周回、観測することが可能になるのです。

 6月末に行われた軌道修正は、OMEの推力方向と重心位置のずれを推定することも兼ねています。このずれは地上で計測を行っていますが、打上げ時の衝撃や微小重力下で変化することもあり、軌道上で変化がないか再度調べる必要があります。OMEの推力方向は重心点の近くを通るように設計されています。重心位置がOME推力方向とずれていると、噴射したときに姿勢を回転させる方向に力が働いてしまいます。このように姿勢制御系は外乱だけでなく、「あかつき」の内部に原因がある力も抑制する必要があります。OME噴射の最中も姿勢が傾いた場合は、スラスタを用いてそれを戻すように制御を行います。しかし、ずれが大きい場合は噴射した瞬間に大きく姿勢が傾いてしまうため、希望とする方向に推力を出すことができません。このずれは10mm以下とするように設計していましたが、OME噴射後の慣性センサの値から、重心位置のずれは約1.6〜1.7mmと小さい値であることが推定できました。


姿勢系支援ツールを用いた「あかつき」金星周回軌道投入に際しての軌道投入エンジン(OME)噴射時のシミュレーション画像


(なりた・しんいちろう)