ブラックホール自身は光を出さないわけだが、仮にブラックホールとその周辺の降着円盤を「撮像」したらどのように見えるだろうか?おそらく、
明るく輝く降着円盤の中心に、ブラックホールが黒い影として見えるのだろう
(「ブラックホールシャドウ」)。
2011年現在、技術的にそれはまだ実現していないが、ブラックホールシャドウとしてどのような画像が観測されるか、多くの計算がなされている。
電波やX線を放出する降着円盤の内縁がブラックホールにどこまで近づけるか、 という議論があるのだが、ここでは単純に、シュワルツシルド半径をそのようなブラックホールシャドウの半径だと考えてみよう。そして、 その見かけの広がりを現在および将来の観測装置の性能(位置分解能)と比較してみよう。
まず、天文観測装置の分解能は日常的に用いられる「視力」と比較するとわかりやすい。視力が1ということは、視力検査で使われる輪っかの1.5mmの
切れ目を5m離れたときに認識できる分解能のことである。その切れ目の広がりは1.5mm/5000mm=0.0003ラジアン。これを分角に直すと、
。つまり、視力1ということは、位置分解能1分角、視力2ということは位置分解能0.5分角に対応する。
多くの地上望遠鏡の位置分解能は、一秒角、程度(視力60)であり、これはほぼ大気の揺らぎによって決まっている。しかし、技術的に大気の揺らぎを
補正することができて(補償光学)、その場合の位置分解能は以下の原理的な値に近づく。
口径の望遠鏡を用いて波長
の光で観測したときの原理的な位置分解能は、ほぼ
さて、ではさらに観測装置の位置分解能を上げるにはどうすればよいだろうか?式(175)からわかるように、望遠鏡の口径を広げて、波長を短くしてやればよい。
望遠鏡の口径を大きくすることには限界があるが、二つ以上の離れた望遠鏡で観測した電磁波を干渉させる、干渉計という技術がある。
これによって、たとえば地上の電波望遠鏡と人工衛星に積んだ電波望遠鏡を用いて、地球よりも大きいサイズの望遠鏡で観測したのと同じ位置分解能を
達成することができる。それを世界で最初に(今のところ最後でもあるが)達成したのが、宇宙科学研究所の「はるか」衛星である
。「はるか」の基線長は3万km、主な観測波長は6cmであったので、位置分解能は、
秒角となる。これが当時では人類が達成した最高の位置分解能で、視力15万に対応する。
私たちの銀河の中心までの距離は 8kpcであり、そこには質量370万
のブラックホールが存在する。その見かけ上の広がりは、
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干渉計は、波長が短くなればなるほど、より精密な制御が必要になるので技術的に難しくなる。2011年現在、地上での光干渉計の観測は始まっているが、宇宙空間での光干渉計はまだ実現していない。
究極的には、宇宙空間で遠く離れたX線干渉計が実現できれば、それが人類が持ち得る究極の位置分解能を持つ観測装置になるだろう。遠い将来、
人類はX線干渉計を用いて、ブラックホールのX線写真を撮れるようになるのかも知れない。