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超光速運動(super-luminal motion)

1981年に初めて活動銀河(クェーサー)の電波観測から超光速運動を報告した論文 ("Superluminal expansion of quasar 3C273", Pearson et al. Nature, 1981, 290, 365)のアブストラクトはわずか一行、以下の通りである: ``Maps of the radio structure of 3C273 show directly that it expanded with an apparent velocity 10 times the speed of light from mid-1977 to at least mid-1980.''

活動銀河が電波を放出すること、しばしばそれがジェットのように中心天体から吹き出すように 見えることはすでに知られていたが、それが中心天体から離れていく速度が光速を10倍以上も超えているように見えることが発見されたのである。これをどのように解釈したら良いだろうか?

Figure: 超光速運動の説明図。光を出すジェット(プラズマの固まり)が速度$v$で観測者に対して 角度$\theta$で放出される状況を考える。$v$が光速に比べて無視できないほど大きく、$\theta$が 小さいときに超光速運動が観測される。
\begin{figure}\centerline{
\epsfig{figure=superluminal.eps,height=6cm,angle=0} %
}\end{figure}

6.2で、上図がブラックホールからジェットが放出された瞬間(速度$v$、観測者に対する 角度$\theta$)、下図がそれから$\Delta t$経過したところである。前者の時刻に放出された光をlight A、後者の時刻に放出された光をlight Bとしよう。天体から観測者までの距離を$D$とすると、観測者がlight Aを受け取る時刻は、light Aが発せられてから$D/c$後である。一方、light Bを受け取るのは、 $\Delta t + (D-v \Delta t \cos \theta)/c$後である。よって、観測者がlight Aを受けてからlight Bを受けるまでの経過時間は、 $\Delta t (1 - \cos \theta v/c)$となる。また、観測者にとっては、ジェットが視線方向と垂直に $\Delta t v \sin \theta$だけ移動したように見える。よって、視線方向と垂直の見かけの速度は、

\begin{displaymath}
v_{app} = \frac{ v \sin \theta}{1 - (v/c) \cos \theta}
\end{displaymath} (112)

となる。これを$\theta$で微分して、それがゼロになる$\theta$の値を求めると、 $cos \theta =v/c$のときに$v_{app} $が最大値
\begin{displaymath}
v_{app}^{(max)} = \frac{ v }{\sqrt{1 - (v/c)^2}}
\end{displaymath} (113)

を取ることがわかる。 $v$$c$に近くなると、 $v_{app}^{(max)}$$c$よりも大きくなりうることががわかるだろう。



Ken EBISAWA 2011-05-30