next up previous contents
Next: シュワルツシルド時空 Up: 一般相対性理論 Previous: 一般相対性理論   Contents

局所慣性系

互いに等速運動している座標系の間では、式(117)で与えられる 四次元時空中の二点間の「世界間隔」は不変量であった。二つの系の間の座標変換(ローレンツ 変換)は、ベクトルの長さを変えない、四次元時空における回転を表す「直交変換」と考えても良いことを 見てきた。 実は、これは重力を及ぼすモノが存在せず、系が加速度運動をしていない場合にのみ 成立する。この条件が成立している座標系を慣性系と呼ぶ。 慣性系では「時空が平坦」なので、世界間隔は不変である。 慣性系においては、ニュートンの第一法則が成立し、 「静止しているモノは静止しつづけ、等速運動しているモノは等速運動しつづける」。 例えば、慣性系で両手にボールを持って、そっとそれを離してみよう。二つのボールの 距離は不変で、それは静止しつづける。

いったいそんな系は現実に存在するのだろうか? 現実の世界には完全な慣性系は存在しないが、 加速度運動による慣性力と重力は区別できないという 等価原理によって、重力と慣性力を打ち消しあった、局所慣性系を定義することができる。 局所慣性系を作るもっとも手っ取り早い方法は、重力に身を任せてしまうことである。 たとえば、宇宙空間に浮かんで、加速、減速はせず、いろいろな 天体からの重力に身を任せている宇宙船の中や、綱の切れたエレベーターの中は局所慣性系である (いわゆる「無重力状態」)。宇宙に行くと重力がなくなる、と言うことはないことに注意。重力は 宇宙のどこにでも存在する(万有引力の法則!)。重力に身を任せて自由落下することにより、重力の効果を 打ち消すことはできる、というのがポイント[*]

たとえば、宇宙空間に漂っている(=加速も減速もしていない)巨大な宇宙船を考えて、 その中に互いに等速運動している局所慣性系を考えると、 そのあいだの座標変換はローレンツ変換で与えられる。 慣性系は局所的にしか存在できないことは、以下の思考実験でわかる。 遠方から地球に向かって自由落下する宇宙船を考えよう。あるいは、綱の切れたエレベーターの中でも良い。 ボールを4つ等間隔に配置する。 もしこれが完全な慣性系で空間が歪んでいないならば、ボールの間隔は変化しないはずだが、 それぞれのボールは地球の中心に向かって落ちていき、地球の中心に近いほうが 重力加速度は大きいので、やがてボール間の横方向の間隔は縮み、 縦方向の間隔は伸びる。

このように、一つの系の中で場所によって重力が異なることによって 見かけ上生じる力を潮汐力と言う。潮汐力によって4つのボールの配置が 変化した、と考えても良いし、重力の影響で、時空が平坦でなくなったと考えても、 全く同じ事である (等価原理により、両者は区別できない)。 潮汐力の影響が無視できるほど小さな領域で局所慣性系$K$を定義することができ、それに相対運動する 局所慣性系$K'$との間の座標変換はローレンツ変換で与えられる。 一方、潮汐力の影響が無視できないほど大きな空間を含んだ系$L$を定義すると、そこでは ニュートンの第一法則がなりたっていないので、これは慣性系ではない。

Figure: ある系において、左側のようにボールが配置されていたのが、しばらく 時間がたつと、右側のようになった。これは、地球の中心に向かって 落下していくエレベーターの中を模式的に示したもの。
\begin{figure}\centerline{
%\FigureFile(7.5cm,){Tenkyu.eps}
\epsfig{file=InertiaFrame.eps,height=4cm}
}
\end{figure}

一般に、 グローバルな慣性系は定義できない(時空は一様でない)ので、(117)は成立せず、 代わりに、二つの局所慣性系座標の間に、

\begin{displaymath}
ds^2 \equiv dx^2 + dy^2 + dz^2 -(c\;dt)^2 = dx'^2 + dy'^2 + dz'^2 -(c\;dt')^2
\end{displaymath} (164)

が成立する。$ds^2$ をメトリック(計量)と呼ぶ。 一般相対性理論によれば、任意の座標変換に対して、局所的な世界間隔は不変である。



Ken EBISAWA 2011-02-08