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ローレンツ変換[*]

これまでに、3次元の直交変換が、天球座標の間の変換や人工衛星の姿勢に応用されることを 学んだ。さらに1次元を加えて4次元時空を考えると、同様の直交変換が、 特殊相対性理論にも使えることを見てみよう。

4次元空間における直交変換を考える。あるベクトルを元の基底で表したときの成分が $(x_1,x_2,x_3,x_4)$、 新しい基底ベクトルで表わしたときの成分を $(x_1',x_2',x_3',x_4')$とする。 ベクトルの長さは不変なので、

\begin{displaymath}
s^2 \equiv x_1^2 + x_2^2 + x_3^2 + x_4^2 = x_1'^2 + x_2'^2 + x_3'^2 + x_4'^2
\end{displaymath} (66)

である。変換行列を $a_{ij} (i,j=1,2,3,4)$ と書くと、3次元のとき(30, 32)と全く同じように、
\begin{displaymath}
a_{ik}a_{jk} = \delta_{ij},\; a_{ki}a_{kj} = \delta_{ij}
\end{displaymath} (67)


\begin{displaymath}
x_i' = a_{ij}\: x_j, \;\;x_i = a_{ji}\: x_j'
\end{displaymath} (68)

が成立する。ここで、1.5節で述べたように、 同じ添字については1から4までの和を取る。

$(x,y,z)$を空間座標成分、$t$を時間とする。 ある事象をある座標系$K$で表わした「世界点」の座標を$(x,y,z,t)$する。 下図のように、時刻$t=t'=0$で原点が$K$と一致し、 $K$と相対的に速度$v$で移動している座標系$K'$を考え、その事象を $K'$で表わした座標を $(x', y', z', t')$とする。

\begin{figure}\centerline{\epsfig{figure=20071126/KKdash.eps,height=6cm,angle=0} %
}
\end{figure}

$c$を光速として、 $x_1=x, x_2=y, x_3=z,x_4=ict$としよう ($x_4$が形式的に「虚時間」に対応していることに注意 )。

このとき、式(66)は、

\begin{displaymath}
s^2 \equiv x^2 + y^2 + z^2 -(ct)^2 = x'^2 + y'^2 + z'^2 -(ct')^2
\end{displaymath} (69)

となり、これは相対的に等速運動をしている二つの座標系において、$s^2$ で定義される「世界間隔」が不変量であることを示している。 式(68)で表わされる $(x,y,z,t)$$(x', y', z', t')$の間の変換がローレンツ変換で、 式(66)で表わされるのがローレンツ不変量である。 一般に、式(66)で示されるように「長さ」が不変で、 式(68)のローレンツ変換に従うベクトルを 四元ベクトルと呼ぶ。

特に、時刻$t=t'=0$で両系の原点を出発した光を考える。光の波面は球面上に拡がっていくわけだが、 時刻$t$,$t'$における波面上の座標はそれぞれの系で、 $(x,y,z), (x',y',z')$で、 式(69)は、

\begin{displaymath}
x^2 + y^2 + z^2 =(ct)^2,
\end{displaymath} (70)


\begin{displaymath}
x'^2 + y'^2 + z'^2 =(ct')^2
\end{displaymath} (71)

を意味している。 つまり、 $K$系と$K'$系がどのような相対速度で動いていようとも、 どちらの系から見ても、光速は$c$である、という 光速度一定の原理が得られた。

具体的な例を見てみよう。 下図のように、$K$系の$z$軸($x_3$軸)のプラス方向に、$K'$系が速度$v$で 動いている場合を考える。

この場合のローレンツ変換は以下の通りである。

\begin{displaymath}
\left(\begin{array}{c}
x_1' \\
x_2' \\
x_3' \\
x_4'
\end{...
...{array}{c}
x_1 \\
x_2 \\
x_3 \\
x_4 \\
\end{array}\right),
\end{displaymath} (72)


\begin{displaymath}
\left(\begin{array}{c}
x_1 \\
x_2 \\
x_3 \\
x_4
\end{arra...
...ay}{c}
x_1' \\
x_2' \\
x_3' \\
x_4' \\
\end{array}\right).
\end{displaymath} (73)

ここで、
\begin{displaymath}
\beta = \frac{v}{c},\; \; \gamma=\frac{1}{\sqrt{1-\beta^2}},
\end{displaymath} (74)

$c$は光速である。この変換行列が、直交条件、(67)を 満たしていること、転置行列が逆行列になっていること $(a_{ij}^{-1}=
a_{ji})$を確認しておこう。

式(72),(73)より、

\begin{displaymath}
x_3' = \gamma(x_3+i\beta x_4),
\end{displaymath} (75)


\begin{displaymath}
x_3 = \gamma(x_3'-i\beta x_4')
\end{displaymath} (76)

である。$K'$系の原点は$x_3'=0$$K$ 系の原点は$x_3 =0$であるが、これらを代入すると、
\begin{displaymath}
x_3 = v\;t,
\end{displaymath} (77)


\begin{displaymath}
x_3' = -v\;t'
\end{displaymath} (78)

が得られる。 (77)は、$K'$系の原点を$K$系で表わしたときの関係式、 (78)は、$K$系の原点を$K'$系で表わしたときの関係式で、 どちらも自明である。

3次元の直交変換は、座標系の間の空間回転を表わすのであった。同様に、 4次元の直交変換も、仮想的な回転で表すことができる。式、(72) を以下のように書こう。

\begin{displaymath}
\left(\begin{array}{c}
x_1' \\
x_2' \\
x_3' \\
x_4'
\end{...
...{array}{c}
x_1 \\
x_2 \\
x_3 \\
x_4 \\
\end{array}\right),
\end{displaymath} (79)

$\cos \psi = \gamma \ge 1$からわかるように、ここで導入した角度$\psi$は 仮想的なものであるが、ローレンツ変換を仮想的な座標軸の回転と考えても、以下で示すように、 正しい結果が得られる。

\begin{figure}\centerline{
\epsfig{figure=20071126/Lorentz.eps,height=5cm,angle=0} %
}
\end{figure}

$K'$系で、$x_3'$軸に沿った、長さ$L_0$の棒を考えよう。$K$系から見ると、 この棒は$+z$方向に、速度$v$で走っていることになる。$K$でこの棒の長さを測るときには、 当然同時刻で測るから、それは、$x_3$軸に沿った長さ$L_1$になる。 図から、

\begin{displaymath}
L_1 = L_0/\cos \psi
\end{displaymath} (80)

だから、
\begin{displaymath}
L_1 = L_0/\gamma = L_0\; \sqrt{1 - (v/c)^2}\le L_0.
\end{displaymath} (81)

よって、走っている棒は短く見える( ローレンツ収縮)。次に、$K'$系に 固定した点における経過時間$T_0$を考える。これを$K$系で測った時間$T_1$は、$x_4$軸に 沿って、
\begin{displaymath}
T_1 = T_0\; \cos \psi = T_0\; \gamma = \frac{T_0}{\sqrt{1 - (v/c)^2}}\ge T_0
\end{displaymath} (82)

となる。つまり、動いている時計はゆっくり進んでいるようにみえる[*]。 では、$K'$系から$K$系を見たときはどうなるのであろうか? 特殊相対性原理によって、互いに等速運動をしている系から、すべての 物理法則は、全く同じに見えなくてはいけない。

\begin{figure}\centerline{
\epsfig{figure=20071126/Lorentz2.eps,height=6cm,angle=0} %
}
\end{figure}
上図からわかるように、$K$系の$x_3$軸に沿った棒の長さ$L_2$$K'$系で測定したときの長さ$L_3$は、
\begin{displaymath}
L_3 = L_2 / \cos \psi = L_2 / \gamma = L_2 \sqrt{1- (v/c)^2} \le L_2
\end{displaymath} (83)

となる。また、$K$系に固定された点が$T_2$の時間経過するとき、$K'$系における 時間$T_3$は、
\begin{displaymath}
T_3 = T_2 \cos \psi = T_2 \; \gamma = T_2/ \sqrt{1- (v/c)^2} \ge T_2
\end{displaymath} (84)

である。 式(81)と (83)、 (82)と(84)をそれぞれ比較することにより、$K$から$K'$を見ても $K'$から$K$を見ても、まったく同じように見えることがわかる。


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Ken EBISAWA 2009-01-26