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局所慣性系

互いに等速運動している座標系の間では、式(86)で与えられる 四次元時空中の二点間の「世界間隔」は不変量であった。二つの系の間の座標変換(ローレンツ 変換)は、ベクトルの長さを変えない、四次元時空における回転を表す「直交変換」と考えても良いことを 見てきた。これは、系が加速度運動をしておらず、重力を及ぼすモノが存在しない場合にのみ 成立し、この条件が成立している座標系を慣性系と呼ぶ。 慣性系では「時空が平坦」なので、世界間隔は不変である。 慣性系においては、ニュートンの第一法則が成立し、 「静止しているモノは静止しつづけ、等速運動しているモノは等速運動しつづける」。

現実の世界には完全な慣性系は存在しないが、加速度運動による慣性力と重力は区別できないという 等価原理によって、重力と慣性力を打ち消しあった、局所慣性系を定義することができる。 たとえば、 宇宙空間に浮かんで、いろいろな 天体からの重力に身を任せている宇宙船の中は局所慣性系である。その宇宙船に対して等速運動している 局所慣性系とのあいだの座標変換はローレンツ変換で与えられる。

慣性系は局所的にしか存在できないことは、以下の思考実験でわかる。 遠方から地球に向かって自由落下する宇宙船を考えよう。あるいは、綱の切れたエレベーターの中でも良い。 その中は局所慣性系になっている (いわゆる「無重力状態[*])。ボールを4つ等間隔に配置する。

\begin{figure}\centerline{
\epsfig{file=InertiaFrame.eps,height=4cm}
}
\end{figure}
もしこれが完全な慣性系ならば、ボールの間隔は変化しないはずだが、 それぞれのボールは地球の中心に向かって落ちていき、地球の中心に近いほうが 重力加速度は大きいので、やがてボール間の横方向の間隔は縮み、 縦方向の間隔は伸びる[*]

一般に、 グローバルな慣性系は定義できない(時空は一様でない)ので、(86)は成立せず、 代わりに、二つの局所慣性系座標の間に、

\begin{displaymath}
ds^2 \equiv dx^2 + dy^2 + dz^2 -(c\;dt)^2 = dx'^2 + dy'^2 + dz'^2 -(c\;dt')^2
\end{displaymath} (133)

が成立する。$ds^2$ をメトリック(計量)と呼ぶ。 一般相対性理論によれば、任意の座標変換に対して、局所的な世界間隔は不変である。



Ken EBISAWA
2008-01-30