本日の運用では,HKデータの取得,逆スピン噴射時のデータ再生を行いました.

逆スピン状態になった場合の姿勢運動についてはまだまだ未知の状態ですので
1日経過してちゃんと通信できるかどうかすら不安がありましたが,
無事に電波を受信でき,テレメトリも取得できました.
逆スピン時のデータも順調に取得できております.
まだまだ逆スピン状態の運動の評価中で気が抜けませんが,
まずは無事逆スピンに成功し,ほっと一息,というところです.


逆スピンについては,半年前では全く勝算を持っておらず,
こんな運用は自殺行為だ,と正直なところほとんど諦めかけていました.
いくらシミュレーションしても,遠心力が弱まった状態で荒ぶる膜面を制御できず,
膜面が絡まったり太陽電池面やアンテナに膜が被ったり,
とにかくもういろいろと破綻していました.


しかし,今年の6月から低スピン運用を行ったことにより,状況が変わってきました.

最近ではごく当たり前に0.2rpmの低スピン状態を維持していますが,
当初は,遠心力が弱まることで膜面がたわみ,展開形状が
維持できなくなる危険性が高い領域だと認識していました.
それが,低スピン運用によって慎重にスピンレートを下げてみたところ,
遠心力が弱い状態でも思いのほか膜面をちゃんと張る状態が維持できることがわかり,
これまでシミュレーションで使っていたセイルの力学モデルも見直す必要があることがわかってきました.
こうして修正したセイルの力学モデルを以ってシミュレーションを重ねた結果,
「これなら逆スピンもいけそうかな」と考えるに至りました.

そうは言っても,いろいろな不具合が高い確率で想定され,
リスクが高いことには代わりがありません.
このため,昨日のOさんブログに書かれたとおり
想定される不具合に対しても対策を施した上で入念に準備を行い,
逆スピン運用を行った結果,昨日見事に成功しました.


低スピン運用と,逆スピン運用,どちらもリスクが高い運用でしたが,
この2つの運用を行わずに,セイルの力学をちゃんと理解することはできないと思います.
通常ならこのようなリスクの高い運用は行えなかったかもしれません.
ミニマムサクセス,フルサクセスを達成し,後期運用において
さらに挑戦的な運用が可能であったIKAROSだからこそ冒せるリスクなのかもしれません.
こうして得られるデータは,本当に貴重なものです.
出来るだけ長く運用してデータを取得し,セイルに対する理解を深めたいと思います.


ところで,昨日逆スピン状態に移行したことが確認できた後の運用室の雰囲気は,
万歳三唱・・・ではなく,なぜか微妙な「うーん・・・」というものでした.
逆スピンコマンドを送信するときは,
「イカロス,お前のうめき声を聞かせてみろっ!」というくらいの悲壮な覚悟でいたのが
「逆スピン? いいよー!」「えいっ!!」「あ,できたよ.で,次は?」
という感じであっさりとイカロス君が返事をしてきたために,
拍子抜けしたというのか,何か呆れたというのか,
歓喜する瞬間を逸してしまいました.
同時に逆スピン開始までの緊張の疲れがどっと一気に押し寄せてきたかんじで,
私の場合,運用後はすぐ帰宅して日没前に眠りに落ちる始末でした.

まだ実感が湧かないというだけかもしれませんけれども.
せっかくすごいことを成し遂げたのに,拍手も無しなんてちょっともったいない!
...みなさんのたくさんのClap!が大いなる救いです.

次回の運用は明日10/20(木)未明開始の前半パスです.(Y2)

10/19のIKAROS
太陽距離: 0.72AU
地球距離: 166725400km, 赤経=167.2°, 赤緯=6.6°
金星距離: 1.36AU(203692203km)
姿勢:スピンレート=-0.3rpm, 太陽角=6deg

Today's IKAROS
Sun Distance: 0.72AU
Earth Distance: 166725400km, RA=167.2deg, Dec=6.6deg
Venus Distance: 1.36AU(203692203km)
Attitude: Spin Rate=-0.3rpm, Sun Angle=6deg