PLAINニュース第186号
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サブストーム開始に伴う磁気圏尾部の時間発展の最新描像

宮下 幸長
名古屋大学 太陽地球環境研究所

背景 : サブストームとは
 オーロラは、極域の超高層大気中で発生する現象である。しばしば、真夜中付近で突然、明るくなり、激しく動き、爆発的に広がる。この現象は、オーロラ爆発と呼ばれ、この時、地上では地磁気の乱れが生じ、磁気圏でも激しい変動が見られる。
 これらの擾乱のもとになるエネルギーは、太陽から太陽風によって運ばれてくる。太陽風の磁場と地球の磁場が昼側の磁気圏前面で相互作用をすることにより、太陽風のエネルギーが地球の磁気圏の中に入る。このエネルギーは、磁気圏尾部と呼ばれる、磁力線が尾のように引き伸ばされた夜側の領域に、いったん蓄えられる(図1参照)。ある程度蓄積され、磁気圏尾部で何かが起こると、エネルギーは急激に解放される。一部のエネルギーは地球の方にもやって来て、オーロラ爆発を引き起こす。この一連のエネルギー解放の過程をサブストーム(オーロラ嵐)と言い、平均して一日に数回、発生する。


図1. 地球磁気圏全体の模式図

 サブストームが磁気圏尾部のどのような物理現象によって引き起こされるかは、磁気圏物理学における未解決の大問題の一つである。数十年にわたって研究され、様々な説が提唱されてきたが、現在も激しい論争が続いている。

統計解析
 そこで、このサブストーム発生機構に関する問題の解決に向けて、サブストーム開始前後の磁気圏尾部全体の時間発展を調べた。ここでは、3787 例ものオーロラ爆発前後の、Geotail、Polar、GOES 衛星によって得られた磁気圏尾部・内部磁気圏におけるプラズマ流・磁場・電場・全圧力などの様々な物理量を統計的に解析した。これらの数値データは、Geotail グループや NASA の CDAWeb から全観測期間分をあらかじめ手元に用意しておいて、自分のパソコンを用いて対象時間帯のデータを処理した。オーロラ爆発の事例は、Polar、または、IMAGE 衛星によって得られた紫外線オーロラの画像をもとに目で見て選ばれたものを使用した。今回の統計解析は、10 年にも及ぶ長年のデータの蓄積(特に Geotail)があったからこそ、成し得たものである。

解析結果
 この解析により、以下のような結果を得た。図2は、主な解析結果である。図3は、本研究で得られた結果のまとめである。


図2. 地球尾部方向のプラズマ流(左)、磁場南北成分の変化量(中)、および、全圧力の変化の割合(右)
時刻t=0は、サブストーム開始(オーロラ爆発)である。変化量は、サブストーム開始10分前付近の値を基準にしている。
座標原点は地球中心で、X 軸の右方向は太陽・地球から離れる方向(反太陽方向)、Y 軸の下方向は地球の夕方側に
向かう方向にとってある。座標の値は、地球から地球半径(RE)の何倍の距離かを表している。

図3. 本研究で得られた結果のまとめ

  1. サブストーム開始の少なくとも2分前に、地球から反太陽方向に地球半径の20倍の距離だけ離れた場所 (X〜−20 RE )よりも尾部側で、プラズモイドに伴って磁場南北成分が減少し始めた (図2中)。この領域では、尾部方向の高速プラズマ流はサブストーム開始直後に顕著に発達した (図2左)。
  2. X〜−20 RE よりも地球側では、サブストーム開始前後に地球方向のプラズマ流は少ししか見られなかった (図2左)。
  3. プラズモイド形成・発達とほぼ同時のサブストーム開始2分前に、X〜−7 RE から X〜−10 RE の領域では、磁場双極子化に伴い、磁場南北成分が増加し始める。その後、磁場双極子化の領域は、尾部方向、朝夕方向、地球方向の四方に拡大していく (図2中)。
  4. 全圧力 (イオン圧と磁気圧の和) は、サブストーム開始 2 分前に、X〜−16 RE から X〜−20 RE の真夜中前の領域で最初に減少し始め、その後、周囲の領域でも減少する (図2右)。最初に全圧力が減少する領域は、X〜−5 RE から X〜−20 RE の真夜中前側に広がる、かなり引き伸ばされた磁力線の領域(図2中で、サブストーム開始前に磁場南北成分が大きく減少している領域)や強い尾部電流層の尾部側の端に対応する。一方、X〜−10 RE よりも地球側では、全圧力は増加する (図2右)。さらに詳しく調べた結果、磁場双極子化に伴って高エネルギー粒子の寄与が増加するためであることがわかった。
  5. 全圧力の減少、すなわち、エネルギー解放は、最初の全圧力減少と最初の磁場双極子化の間の領域、つまり、X〜−12 RE から X〜−18 RE で顕著である。

結論
 以上の観測結果から得られた結論は、次の通りである。

  1. 磁場南北成分の減少と全圧力の減少から、磁気リコネクションは、少なくともサブストーム開始2分前に、平均的に X〜−16 RE から X〜−20 RE の真夜中前の尾部で最初に発生する。磁気リコネクションの領域は、X〜−5 RE から X〜−20 RE の真夜中前側に広がる、かなり引き伸ばされた磁力線の領域や強い尾部電流層の尾部側の端に位置している。サブストーム開始直後に X〜−30 RE 付近でプラズモイドが大きく発達する。
  2. 磁気リコネクション発生とほとんど同時に (2分時間分解能で)、磁場双極子化は、サブストーム開始2分前に、X〜−7RE から X〜−10 RE の領域で始まり、その後、磁場双極子化の領域は四方に広がる。
  3. エネルギー解放は、磁気リコネクションと最初の磁場双極子化の間の領域で顕著である。この結果は、サブストーム発生機構の解明への手がかりとなるかもしれない。

 以上のように、本研究により、サブストーム開始に伴う磁気圏尾部と内部磁気圏の発展の全体像を確立させた。サブストーム発生に重要な磁気リコネクションと磁場双極子化の因果関係や両者の詳細な発生機構については、解明すべき大問題として残されているが、本研究で得た全体像は、今後の複数衛星の観測データに基づく、尾部発展や各物理過程の詳細な解析をする際、指針となる重要な結果である。



(1MkB/ 4pages)

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