PLAINニュース第182号
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国際惑星データ連合:IPDA
International Planetary Data Alliance

笠羽 康正・東北大・理・地球物理
[IPDA 副議長 (2007-2009), 次期議長 (2009-2011)]

1.What's IPDA?: その起源

  ご存知ない方が大半と思われるので、まず経緯から説明説明しましょう。

 私は 2007 年春まで JAXA・ISAS におり、日欧共同水星探査計画「BepiColombo」のコアメンバーの一人でした(これは現在進行形でもあります)。この成功には多方面の共同が不可欠ですが、そのひとつとして「如何にしてデータをユーラシア大陸の両端を跨いで共有するか?」があります。JAXA 側は私と篠原さん(旧 PLAIN センター)、ESA 側が ESA/PSA (Planetary Science Archive) の Joe Zender 氏でした。2006 年春先、ESTEC にて彼が私に持ち出した話題がこの「IPDA」です。

 当時、我々が何を困っていたか。それは「世界標準を議論し定義する仕組みがない」ということでした。現在最も惑星データを所有・公開している宇宙機関は米・NASA です(ロシアも所有していますが、多くが未整理・未公開)。 NASA では、近年「データ公開こそが探査の最終目的。この実施がミッション遂行のゴール」と定義し、機器開発チームへ必要な人とお金を付けるという戦略を着実に行っており、圧倒的な充実を誇っています。ところが、NASAの惑星データベース組織である「PDS (Planetary Data System, JPL に本部)」はあくまで米国内組織で、フォーマットやメタデータの定義等が国際調整抜きで決定・変更されてきました。私は「のぞみ」準備の一環として 2000 年頃からコンタクトを取っていましたが、「PDS へ、PDS のやり方に従って、データを収めてください」というもので、「独立データベース間の相互連携」という思想がありませんでした。

 火星周回機 Mars Express (MEX) をはじめ、日本同様遅れて惑星に乗り出した ESA も、同様の問題を抱えました。「PDS へ"依存"せず、かつ"連携"するには?」が Zender 氏も課題だったわけです。日本・中国・インドの月周回機の実現を目前に控え、何らかの国際組織の設立は不可避でした。

2.What's IPDA?: その設立

 2006 年 11月に ESA/ESTEC で行われた「第一回運営会議」には、米・欧・日・ロシア・中国・インドから惑星データベースを構築している 10数名のメンバーが集まりました。「出たとこ勝負」だったわけですが(何せ、米・欧・日以外は相互の面識があまりなく、事前の意見交換もなかった)、Zender 氏を初代議長とする「新国際組織」を立ち上げるという合意に達し、出発点として以下の原則を立てました。

(1) 各機関は、独立に惑星データベースを構築する。
[集権的統合はしない。] 

(2) 各データベースは、共通の構造を有する。 基礎として、NASA/PDS をデファクトスタンダードとする。 [NASA/PDS から、「国際共通インフラ」として定義できる部分を抽出する。]

(3) 各データベースは、共通インターフェースで外部ユーザから利用可能とする。
[共通アクセスプロトコルを開発し、複数データベースを跨いだ検索・閲覧を可能とする。]

 Virtual Observatory (VO)とも共通するこの思想を基礎とし、2007 年 7月に米カリフォルニア工大で第二回会合、2008 年 8月にカナダ・モントリオールで第三回会合を経て、COSPAR の元で正式に発足。現在「正規組織1年目」の活動中です。2007年には、議長のZender氏が ESA/PSA から離れ、イタリア IASF-INAF の Maria Teresa Capria 女史が議長となりました。私も東北大への異動に伴い離れる予定が、「次期議長は米・欧以外の設立メンバーから」という定義に引っかかり、次期議長 (2009-2011) 予定の副議長にされています。
(交代歓迎。我こそはと思わん方は私まで)

3.What's IPDA?: その活動

 IPDA は、運営委員会の元に置かれた複数の「プロジェクト」にその実質基盤があります。2008-2009 期には、以下の6つのプロジェクトが設定されて動きつつあります (カッコ内はリーダー) 。

<共通基盤>

「文書化要求」プロジェクト (議長預かり)
「IPDA 構造標準定義」プロジェクト (NASA: Dan Crichton)
「IPDA 情報モデル・データ辞書」プロジェクト (NASA: Steve Hughes)

<相互接続基盤>

「相互接続プロトコル (PDAP) 実装」プロジェクト (ESA: Pedro Osuna)
「PDAP 評価」プロジェクト (JAXA: 山本)
「小天体データベース」プロジェクト (JAXA: 篠原)

 ご覧になってわかると思いますが、

  1. 共通インフラの定義作業: NASA/PDS に精通し、その次世代構築作業にこの定義を要する NASA メンバーがリード
  2. 相互接続基盤の開発作業: 同一衛星の独立データベースがある Mars Express、Venus Express を基礎に、ESA メンバーがリード
  3. これら新定義の評価作業: 「かぐや」「はやぶさ」や今後の惑星探査機が入る「惑星データベース」の構築作業を要する、JAXA メンバーがリード

という分担関係です。

 根本問題として、JAXA は「この種の活動に対する理解」と「その能力を有する人」が明らかに他機関に比して不足している上に、「ISAS と JSPEC どちら?」といったローカル問題まであります。「副議長」としては「JAXA 内部問題なんぞ知らんので、仕事してください。」

 日本は、ここまで私の個人プレー以外にほとんどこの活動に貢献していません。今後、組織としての対応を強く希望し、本文を締めさせていただきます。

[参考: IPDA Web - http://planetarydata.org/]

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