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第25号 1995年11月14日発行

目次


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サイエンス・データベース(DARTS)構想

 宇宙科学研究所のデータベースには、既に「SIRIUS」と呼ばれる衛星のテレメトリーデータを保存管理するシステムが稼働しております。このデータベースは言わば生データの保管庫であります。しかし、実際のデータ解析では、SIRIUSに直接アクセスするのではなく、SIRIUSデータをもとに適当な処理を施した解析用のデータベースを用いています。現在PLAINセンターで考えているサイエンス・データベース構想とは、その物理量に変換されたデータベースを広く一般のユーザが利用できるようなシステム作りすることです。SIRIUSに対して、サイエンス・データベースの方は、「DARTS」(Database for ARchives of Telemetry Science data)と呼んでいます。ここではDARTSの現状を紹介します。

 まず最初にこのDARTSの利用価値についてですが、将来多くの研究者がDARTSを利用するであろうと考えられています。宇宙研の衛星のデータは、一般に打ち上げ後暫くの間はプロジェクトの管理下にありプロジェクト関連の研究者によって利用されています。しかし、衛星のデータはプロジェクトが終了した後も利用価値が高く、様々な角度から研究することによって新たな発見に繋がるものが数多くあります。そのためプロジェクトが終了した後もそのデータを管理・保管して、国内外を問わず広く一般の研究者が利用できるような体制を整えて欲しいという要望があり、それに応えるべくDARTS構想が始まりました。

 現在のデータベース公開に向けての準備状況ですが、宇宙研では大型計算機のリプレースが来年3月にあり、その時にサイエンス・データベース構築に必要な基本的ハードウェアーを盛り込むことにしております。WWWサーバを介して衛星データの検索・配信を行うことが出来るデータベースであり、バックエンドに磁気テープライブラリとして4.8テラバイトの記憶容量を持ち、フロントエンドのワークステーションで、データ検索・配信およびデータ解析等を行うことができるシステムの検討をしております。具体的には以下のような構成です。

ハードウェアーの構成

a)
ワークステション(S−4/20H)
CPU性能 1台(SPECint92 132,SPECfp92 153)
主記憶 96MB、磁気ディスク24GB
b)
磁気テープライブラリ(AV−120 2台)
記憶容量 4.8TB、 VHSテープ240巻
転送速度 1ドライブあたり2MB/秒、ドライブ数8台
テープ交換時間 17秒
 さて、データベースにとって重要なのは、ハードウェアーの性能だけでなく、そのデータを表現するソフトやユーザインターフェースの出来映えも重要な位置を占めます。可視化のソフトが整備されていなくてはいけません。現在は分散処理環境が進んでいるために、各利用者がデータとともに各プロジェクトで開発した解析ソフトを各自のワークステーション等にインストールして解析するという形態を取っています。しかし、ソフトのインストールも複雑になってきているので、一般ユーザはデータを引き出しても解析するまでのいくつかの問題を乗り越えられない場合があるようです。そのため、センター計算機に一連のソフトをインストールし、そこでも簡単にデータ解析が出来るようなシステムが理想であると考えています。

 データの公開の考え方です、DARTSでは一般公開が許されたデータのみを扱うことにしたいと考えています。プロジェクトによってデータの所有権・著作権の考え方が違いますが、観測してから1年から2年ほどで衛星のデータは一般公開が認められているようです。 最後に、サイエンス・データベースの愛称 DARTSですが、他によい名前がありましたらご提案お願いします。また、DARTSに関してご意見ご要望等御座いましたら、PLAINセンター星野 (hoshino@gtl.isas.ac.jp) までお願いします。  
(星野 真弘)


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あすか」衛星の運用とデータ処理
ー(その5)観測された科学データの解析

 公募観測が受け付けられた観測者は、その観測が終了すると、前回述べた様な受信データの選別、編集、変換がなされた、FRF 形式または FITS 形式のサイエンスデータを受け取ることになる。この時観測者には検出器の較正データ・応答関数や解析を支援するソフトウエアーが支給される。

支援ソフトは
 (1)受け取ったサイエンスファイルから解析目的に合致するデータを抜き取るためのツール(XSELECT)、
 (2)主に画像処理をするソフト(XIMAGE)、
 (3)主に時系列データ処理を行うソフト(XRONOS)、
 (4)主にエネルギースペクトルの分光解析をするソフト(XSPEC)、
 (5)これらの主要ソフトをサポートするために、較正データ・応答関数の取り込み、観測画像の天球座標への変換、観測データの時間変換、等を行うツール群に大別される。

 科学解析の詳細やその結果を述べるのは本稿の主旨ではないので割愛し、その科学解析の流れの概要のみ図5に示す。そして画像解析の一例としてとも座の超新星残骸、Puppis A のX線像を図6に示す。まず XSELECT と呼ばれるセレクターで全観測エネルギーバンドのX線をとり、XIMAGE を使ってX線像を求め、そのX線強度を等高線表示で描いたものが、図中の緑色の等高線である。次ぎにセレクター、XSELECT に戻り、0.5 keV, 1.0 keV, 1.4 keV, 1.9 keV を中心とした狭いエネルギー巾(0.1-0.2 keV 巾)内のX線を選んで再度 XIMAGE を使って、各エネルギーバンド毎のX線像を求めたものを、全エネルギーバンドの等高線表示と重ねて、カラー表示で各パネルに示した。

 この結果からすぐに、場所毎にこの超新星残骸の温度が異なる様だと推測出来る。すると、このイメージの上で場所毎に区切ったエネルギースペクトルが見たくなる。また、「あすか」のCCDカメラはエネルギー分解能が良いので、ネオン、マグネシウム、シリコン、硫黄、アルゴン、鉄等の特性X線を分離して観測出来る。そこで、各輝線毎に図6のような強度分布の画像を作成して見たくなる。そして、これらの結果が、従来の理論で解釈出来るかどうか比較、検討に入ることになる。この過程では、計算モデルと観測スペクトルのフィティングなどを行う。そして再び解析に戻る。XSELECT、XIMAGE、 XRONOS、XSPEC、の間を行ったり来たりすることになる。そして新しく得られた成果は論文として発表されることになる。

 ここまで、「あすか」衛星の運用とデータ処理について、5回に分けて連載してきたが、図6に示す「あすか」によって得られた美しい超新星残骸のX線像をもって本稿を閉じることとする。  
(長瀬 文昭)


図5.「あすか」観測データの解析手順の流れ図。


図6.「あすか」によって観測された、 とも座超新星残骸 Puppis A のX線像。


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