PLAINセンターニュース第98号
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産学連携プロジェクト
DARTS バーチャルセンター
事業終了

長瀬 文昭
PLAINセンター

 宇宙科学研究所(宇宙研)では1993年に宇宙科学企画情報解析センター(PLAINセンター)が設立された。そして1995年より宇宙研の衛星観測事業で取得されたデータを一般研究者の利用に供するためのデータアーカイブシステムDARTS (Data ARchives and Transfer System) 開発計画を立ち上げ、1997年より一部の衛星データの公開を始めていた。1998年10月からは科学技術振興事業団(JST)、計算科学技術活用型特定研究開発推進事業のプロジェクト(ACT-JST)の1つとして、「宇宙科学データ解析研究のためのバーチャル・センター構築」(DARTS-VDCと略す)が3年計画として採用され、DARTSデータベース拡充事業が始められた。このプロジェクトの骨子はネットワークを有効に利用し、かつ宇宙研衛星プロジェクト関係者及び宇宙科学関連の大学・研究機関の協力を得て、アーカイブデータの開発・構築を進めることでした。主要な研究開発項目は(1)宇宙研の衛星観測データを一般研究者が容易に利用できるデータに変換したアーカイブデータベースを作成しDARTS-VDC傘下で管理する、(2)DARTS-VDC傘下のアーカイブデータベースを利用する研究者にその解析支援ソフトウェア群を整備、提供する、(3)国内研究者の総合的解析の便宜を図るため、海外の宇宙科学に関する主要なデータベースを集約したミラーサイトをDARTS-VDC傘下に設置する、ことであった。

 本計画以前に一部のデータを公開していた「あすか」のX線天文データベース、「ようこう」の太陽物理データベース、Geotailの磁気圏プラズマデータベースは本計画期間中に内容の一層の充実とデータの追加が行われた。それに加え(1)Geotail 衛星磁場データベース、(2)「あけぼの」衛星地球磁気圏データベース、(3)IRTS 赤外線天体カタログデータベース等が新たに構築され、DARTSシステムを経て公開される運びとなった。さらに、(4)「ぎんが」公開データベースの再構築をも行ったが、これは解析ソフトをUNIX OSに変換した後公開の予定である。また当初計画した「多波長観測データ可視化ツール」、「Geotail衛星・3次元プラズマ速度データ可視化システム」、「Geotail衛星・プラズマ波動可視化ソフト」、「γ線バースト地上速報システム」等の解析支援ツールの開発も順調に進められた。さらにミラーサイトを構築し、そこには現在太陽地球系物理学データベース(CDAWeb)、X線天文データベース(ROSAT/BeppoSAX)等が組み込まれ、既に宇宙科学データベース中継サービスを開始している。

 「はるか」電波天文学データベースのアーカイブ構築開始は当初の開発研究計画では想定していなかった項目であったが、追加して作業に着手できた。また、太陽のX線画像の時間変化をムービーとして可視化する「Solar Theater」の開発も本プロジェクト期間に追加して開発することができた。本プロジェクトでの開発により宇宙研の衛星事業で取得した「ぎんが」衛星以降の衛星観測データのうち、公開可能でかつ一般研究者の利用価値が高いと思われる資源は全てアーカイブ化を行なう目処が立った。これらの科学アーカイブデータの迅速な構築は各衛星プロジェクトチームと協力し、その支援を受けて行うことで可能となった。特に「あすか」、「ようこう」など国際協力で製作、運用されている衛星については、データのアーカイブは元より、解析支援ツールの開発においても、米国NASAなど、外国の共同研究機関の支援をも受けた。本プロジェクトによる研究開発達成度一覧を表1に示す。

 こうして、宇宙研の衛星で取得され、各機関の協力で開発されたアーカイブデータは宇宙研のDARTSデータアーカイブシステムで一元管理されている。ただし、「あすか」、「ようこう」などのように国際協力で製作、運用されている衛星については、海外の共同研究機関に等価なアーカイブデータベースが置かれ、そちらからも公開されている。今回開発されDARTS傘下に置かれた宇宙科学データベースを利用しようとする研究者はインターネット経由で http://www.darts.isas.ac.jp/ にアクセスすることにより、その傘下にある全てのアーカイブデータと解析支援ツールを自由に利用することができる。宇宙研が所有する過去の衛星観測データ資源は約 3.5 TBであり、今回の開発でこのうち約2 TBが科学データベースとして編集公開された。最近1年間のDARTS全体での総アクセス件数は1日平均1100件である。科学研究目的での限られた研究者によるアクセスであることを考慮すれば、この種のデータベースとしてはまずまずよく利用されていると言えよう。またこの開発研究に携わっているのは宇宙科学研究者であり、開発に携わると同時に一般公開用に構築・開発されたアーカイブデータや解析システムを用いて自ら相当の研究成果も挙げている。なお、今回のプロジェクトに参加した主な機関は宇宙研・PLAINセンター、東大理学部、東工大理学部、京大宙空電波研究所、名大理学部、国立天文台計算機センター、理化学研究所宇宙放射線研究室である。また、本プロジェクトの成果は、本プロジェクトで採用し各機関に派遣されたJST研究員、松井洋(派遣先:東工大理学部)、高橋英則(同:名大理学部)、山下朗子(同:宇宙研)、渡邊大(同:宇宙研)、渡辺学(同:宇宙研)諸氏に負うところが大きい。今後も本プロジェクトの開発理念を継承し、DARTS データベースシステムを維持・発展させて行きたいと考えている。

表1. ACT-JST/DARTS-VDC 研究開発達成度一覧
(○は完成・公開中を、△は開発中・未公開を表す)

ACT/JST 以前 当初計画 追加項目 現状

データベースアーカイブ化

0 0 0 0

「あすか」X線天文

△(一部公開)

第1版全データ

第2版全データ

「ようこう」太陽X線

△(一部公開)

データ追加・機能補強

「Geotail」磁気圏

△(一部公開)

新データセット追加

「あけぼの」磁気圏

×

新規構築

「SFU/IRTS」赤外線天文

×

新規構築

「ぎんが」X線天文

×

アーカイブ再構築

「はるか」電波天文

×

×

アーカイブ構築

解析支援サービス

0 0 0 0

多波長天文画像データ検索・閲覧

×

第1版開発

第2版開発

「Geotail」分布関数可視化

×

開発

「Geotail」波動スペクトル可視化

×

開発

γ線バースト地上速報

×

×

システム構築

「ようこう」データ閲覧システム

×

×

Solar Theater

海外データミラー

0 0 0 0

CDAWeb

×

ミラー

「ROSAT」全天X線天文

×

×

ミラー

「BeppoSAX」」

×

×

ミラー

HEASARC/W3 Browse

×

×

ミラー



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