PLAINセンターニュース第206号
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宇宙科学資料室の活動の展開

佐藤 靖、小野 縁
科学衛星運用・データ利用センター 計画調整グループ


 宇宙科学資料室は、ISAS 内部に蓄積されている貴重な技術資料の散逸を防止し、情報の共有化と有効活用を図ることを目的として、2007年度より 5ヵ年計画で基本的なシステムを構築するべく活動を続けてきている(発足の経緯は 2007年10月号 PLAIN ニュース参照)。これまで、資料のデジタル化・データベース化及び検索システムの構築を進め、目下一部試験運用を行っているところである。今後は、試験運用の結果を踏まえてシステムを調整し、本格運用へと移行できることを目標にして、より幅広く資料の収集に努め、コンテンツを充実させていくこととしている。

これまでの活動

 宇宙科学資料室が取り扱っている資料は、ISAS の草創期のものから近年のものまで幅広く、量的にも膨大である。これらの資料は、文書・写真・動画の3つの種別に分けられる。文書としては、実験計画書・報告書をはじめとして、会議資料・議事録や承認図、それに退官教授による寄贈資料などがある。写真は、ロケット・衛星・大気球実験各々の組立て・試験・打上げを撮影したものをはじめ、総計65万枚程度に上る。動画映像も、記録映画作品や貸出し用ビデオのほか、未使用の撮影素材も多数保有している。宇宙科学資料室では、これらの資料を限られた期間で可能な限り活用しやすい形に整理・保存することを目指し、これまで活動を行ってきた。

 基本的な方針としては、各種資料のデジタル化を進め、そのデジタル・データを DSpace というソフトウェアを組込んだサーバーに格納して、検索できるシステムを採用した。DSpace とは、内外の大学・研究機関等において幅広く用いられているリポジトリ構築のための標準的ソフトウェアの一つである。ただし、宇宙科学資料室が保有する文書・写真・動画全ての種類のコンテンツを DSpace に格納するにあたっては、使い勝手を上げるための工夫が必要となった。紙ベース文書に関しては、OCR 機能のついたスキャナで読み取った PDF ファイルを格納し、全文検索ができるようにした。写真については、ダウンロード前に、42 枚を上限としたブロックに分けたサムネイルで確認し、目標とする写真を概ね特定してから、ダウンロードして解凍するような仕組みにした。動画映像もサムネイルを設定して表示し、的確な内容説明(キーワード)を付すことによって、スムーズにデータを入手できるようにした。


DSpace トップページ

 ただし現時点では、保有する全ての資料を DSpace へ格納することは完了していない。実験計画書・報告書や M-V 関連の会議議事録等については DSpace に順次格納しているが、各種図面や M-3SII 関連資料については、デジタル化が適切か書誌情報のみでよいのか、費用対効果や紙ベース保管でのスペース等を考慮しなければならず、検討を要する。写真のデジタル化は進行中だが、DSpace に格納されているのはこれまでのところ主に M-V-1号機関連(噛合せ・総合試験〜フライトオペまで)や大気球・観測ロケットの記録写真である。動画データについては、作品化されているものは全て DSpace に格納済みである。一部は、一般向け宇宙科学研究所ホームページの TV@ISAS でも視聴可能である。

 このように資料のデジタル化や検索システムの構築を進める一方、宇宙科学資料室では内外の研究機関等におけるアーカイブ・リポジトリ構築をめぐる動向を調査してきた。近年では、海外はもとより国内でも文書の保存管理を推進する動きが幅広くみられる。全国の大学・研究機関の多くは、図書館の業務の一環としてリポジトリ構築に取り組むだけでなく、専任の教職員を置いてアーカイブの整備を進めている。また、すでに関連学会として日本アーカイブズ学会や記録管理学会が活動しており、アーカイブの運営を司るアーキビスト養成のための課程を設置している大学もある。このような動きの背景には、国全体で説明責任に関する意識が高まってきたことが挙げられる。2009年6月には、「公文書等の管理に関する法律」も定められた。同法は、各省庁における「公文書」の管理方法を定めたものであり、2011年4月からの施行に向けて、現在詳細なガイドラインの制定が進んでいる。ISAS においても、このような動向をフォローしつつ、アーカイブ構築を進めていく必要がある。

 
  ペンシルロケット           カッパーロケット 1958年
 
カッパーロケット 1963年             おおすみ    
 
はやぶさ

今後の課題

 宇宙科学資料室は、これまで DSpace を用いたリポジトリのシステム構築に取り組み、格納作業と平行して一部試験運用を開始する段階まできたが、今後もクリアしていかなくてはならない課題がある。それは、DSpace の本格運用に先立ち、資料室の業務に関する規程類を整備し、ISAS が収集・保存・公開すべき資料を選別するガイドラインの設定、公開方法、公開範囲、継続的に受け入れていく体制等の運営方針について、議論する場(委員会)が必要であるということである。例えば、教職員の退職時に資料が提供された場合などに、どのように受け入れていくか等、現時点では決まった方針がない。

 ISAS に蓄積される資料は ISAS の資産であり、その資産を有効に利活用していくため、決して散逸してしまうことのないよう、システムに格納して ISAS 内部でアクセスできるようにするプロセスを確立する必要があると考える。今後、所内で幅広く議論していただきつつ、宇宙科学資料室の活動を展開していきたい。

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