PLAINニュース第185号
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全天X線監視装置 (MAXI) のデータ伝送と処理

上野 史郎
ISS科学プロジェクト室

1. MAXI 〜フライト品は打ち上げを待つばかり〜

 全天X線監視装置 (MAXI) をスペースシャトルで2009年6月に打ち上げます。国際宇宙ステーション (ISS) の日本実験棟 (JEM きぼう)に取り付け、2年以上 (目標は5年以上) にわたり全天をX線波長域で観測します。理研と JAXA が中心となり、阪大、東工大、青学、日大、京大が協力して運用とデータ解析の準備をすすめています。

 MAXI は長期間たえず全天を観測して、突発的なX線増光を逃さずとらえ、「全天の国勢調査」を実施します。検出した増光天体の情報(位置と明るさ)はインターネットで即座に公開し、他の観測装置(多波長、多場所)による追観測開始のトリガとして活用していただく予定です。
 MAXI のデータ伝送と処理は次の特徴を持ちます。

1) 通信リソースを宇宙ステーションの他実験と分け合う。
2) 速報と公開のためにデータをパイプライン処理する。

2. MAXI が発生する観測データ

 MAXI 搭載の2種類のカメラ、X線ガスカメラ (GSC) とX線 CCD カメラ (SSC) で、それぞれ 2〜30 keV (GSC) と 0.5〜12 keV (SSC) のX線光子エネルギー領域を観測します。これまでの全天X線モニターの10倍の検出感度をもち、系内天体はもとより系外天体(活動銀河核など)のX線強度変化をモニターできます。X線カメラで取得する最小データ単位は「X線イベント」です。各X線イベントは、検出時刻 (t)、検出器上での検出位置 (x)、エネルギー (E)を属性にもちます。明るいX線天体が視野に入ったとき急増するX線イベントを取りこぼさないように MAXI は小容量メモリを搭載しています。しかしデータを長期間 (数分間以上) 保持するためのデータレコーダは未搭載です。

3. MAXI の ISS 機上の通信路

 日本実験棟 (JEM きぼう) は搭載実験装置に3種の通信インタフェイス (MIL1553B 低速系, 10BASE-T Ethernet 中速系, FDDI 高速系)を提供します (図1)。MAXI はこのうちの2つ、MIL1553B と Ethernet へデータを出力します。
 MAXI から送出した低速系データは、NASA 装置経由、JAXA 装置経由の両方で同時にダウンリンクできます。一方、MAXI の中速系データは、NASA 系、JAXA 系どちらか一方にのみ送出可能です。NASA 系を使うには、MAXI 内部で IEEE802.3 Etherframe をつくり、機上の NASA Gateway MAC アドレス宛に送出します。Gateway 到着後は CCSDS ヘッダ内部の APID (という数値) を使ってルーティングが行われ筑波宇宙センターに届きます。JAXA 系を使うには、UDP on IP パケットを地上 (つくば宇宙センター)計算機の IP アドレスとポート番号宛に送出します。


図1 MAXIテレメトリの宇宙ステーション機上通信経路

 MIL1553B は衛星や航空機などで使用される通信バスで、通信帯域を固定タイミング固定長のデータ伝送スロットに小分けし、利用者 (通信ノード、例えば MAXI) に割り当てます。MAXI では、ミッション遂行に必要で確実にダウンリンクしたいテレメトリを低速系へ出力します。

 一方 JEM Ethernet は、Repeating Hub を用いているため Etherframe 衝突の発生頻度がある敷居値を超えると、MAXI 中速系データの欠損 (Ethernet frame ロス) が起こります。中速系へは MAXI の全データをダウンサンプリングせずに送出します。

4. MAXI データの地上へのダウンリンク

 MIL1553B と Ethernet に送出した MAXI テレメトリデータは、図2 に示したように静止軌道にあるデータ中継衛星経由でダウンリンクします。
 NASA 経由はデータ中継衛星「群」TDRSS を使用するので、長いリアルタイム通信が可能です。例として図3 に、ある日の通信可能時間帯を示しました。現在の典型的な Ku バンド通信可能時間割合は、平日 70%, 週末 60% です。一方 JAXA 経由は、データ中継衛星を1機のみ使用し、さらに使用時間を地球観測衛星「だいち」と分け合うため、ISS に割り当てられる可視時間は短くなります。しかし JAXA 経由には「通信リソース配分を JAXA で決定できる」、「端 (つくば地上) から端 (MAXI) まで TCP/IP で通信できる」といった利点があります。

5. MAXI データの地上処理

 筑波宇宙センターに設置する MAXI 地上系では、生データの保存、テレメトリの Quick Look、突発X線増光天体のサーチと速報送出を行います (図4上部)。理化学研究所の MAXI 地上系では、JAXA から MAXI の全生データをオンラインで受け取り、詳細な科学解析と、データの公開を行います (図4下部)。

6. MAXI データの公開

 「X線イベントデータ」の解析は図4下部に示したように理研に設置した MAXI データ解析システムで行います。その出力である、ライトカーブ、スペクトル、イメージをウェブサイトを通じて一般に公開します。MAXI が本運用に入ってから 3か月目以降に、事前選出の約 1000 天体分から順次公開する予定です。


図2 宇宙ステーションから JAXA へのデータダウンリンク


図3 TDRSS 経由でリアルタイム通信可能な時間帯の例


図4 MAXI データの地上解析と配布

7. MAXI データのアーカイブ

 ミッション終了後にもデータを活用できるよう、全 MAXI データはアーカイブ化する予定です。設置場所として、JAXA 宇宙科学研究本部の科学衛星運用・データ利用センターを予定しています。ご協力よろしくお願いいたします。


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