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PLAINセンターニュース第155号 |
村田 健史 1. 緒言 宇宙科学研究本部は、科学衛星や惑星探査機を打ち上げ、太陽の活動や月・惑星、地球近傍の宇宙空間、ブラックホール、銀河の成り立ちなど、宇宙に関するさまざまな謎を解明することを目的とした組織である。これらの謎を解明するための新しい観測機器や高度な衛星観測技術の開発が、同本部の主な目的のひとつである。開発された観測機器や観測技術により宇宙空間や天文分野のさまざまな観測が行われ、観測データを解析処理することにより、これまでに多くの科学的成果を得てきた。 観測計画は特定のテーマに基づいた科学探査を目的としており、それを解明するためのデータ解析は精力的に行われてきた。しかし、解析後に蓄積された観測データをどのように利活用するかについての議論は軽視されてきたように思われる。蓄積された観測データは、本来の目的以外にも国内外の他の観測機関による同時観測と比較することでグローバルに現象を理解するために参照されたり、将来、異なる目的でこれらのデータを活用したりすることもありえる。言い換えると、天文学、宇宙科学、地球科学などにおける自然科学観測データは、その時々でしか得られない、二度と観測できない過去の宇宙空間の情報という点で重要である。貴重な蓄積データを利活用するためには、何が必要であろうか? 一方、現在の科学衛星観測データは、新しい観測機器の開発と高度な衛星観測技術、およびテレメトリ技術の向上により大規模化かつ複雑化する傾向にある。蓄積されるデータ量は膨大なものとなっているにもかかわらず、これらの大量データから必要とするデータファイルを検索する方法や、データファイルの山から所望する情報を高速に抽出する技法は十分に活用されていない。また、複雑なデータに対して、それらをより直感的に理解する技術も成熟しているとはいえない。たとえば筆者が関わっている太陽地球系プラズマ観測においては複数衛星による多地点同時観測が今後の主流となると思われるが、これらのデータを深く理解するためには、2次元プロットではなく、3次元のデータを3次元のまま理解できる可視化解析環境が必要であろう。 現在の情報通信ネットワークは、インターネットの普及によりますます広がりつつある。特に、学術系ネットワークのバックボーンの拡充、国際回線の高速化、一般家庭へのブロードバンドネットワークの普及など、10 年前には考えることができなかった大容量のデータ伝送が可能となっている。これらを背景に、高速ネットワークを前提とした新しい通信サービスが日々提案されている。また、パーソナルコンピュータの数値データやグラフィックスの処理能力は、10 年前のスーパーコンピュータに匹敵する。高価なワークステーションを用いなくても、比較的安価な環境でも3次元のデータ処理をダウンサイズして行うアプリケーションや技法は整いつつある。 これらの新しい情報通信技術の中には、宇宙科学分野やその他の自然科学観測分野で活用できる可能性を秘めた技術が多く含まれている。また、情報通信分野では、研究開発された新しい情報通信技術を応用するテーマを常に求めている。しかし残念ながら、宇宙科学分野はこれまで、このような新しい情報通信技術を導入することに積極的ではなかったように思われる。その結果、大型の予算申請の機会を失ったり、それらの技術が他分野で活用したりしてから初めてのその有効性に気づくなど、いわゆる「後手にまわる」ことが多かった。このような現状を打破するためには、われわれはまず、今、どのような情報通信技術が存在し、またそれらをどのような研究やデータに活用できるのかを積極的に考える必要がある。 本稿では、筆者が本研究分野で有効であると考える新しい情報通信技術を、できる限り紹介する。これらは、少しの工夫を加えるだけで研究のブレークスルーとなる技術や、現在は未成熟であるが将来は研究の主流になると予想される技術も含まれる。宇宙科学関連の学会や研究会において情報通信技術を応用したデモンストレーションを行うと、しばしば、奇をてらった新しいツールの紹介と思われることがある。しかし、筆者が行いたいのは単なるインパクトのあるエキシビジョンではない。次世代の宇宙科学研究手法につながる、新しい技術である。 宇宙科学分野の研究者と話をする時にしばしば感じるのは、宇宙科学を専門とする科学者が、情報処理技術を「時間をかけさえすればだれでもできるモノ」と考えている節があることである。たとえば、新しいプログラミング技法を駆使したデータ解析ツールを紹介すると、「時間さえあれば、私もこういうアプリケーションを作ってみたいのだけどねぇ」などと言われる。しかし、それは間違いである。情報処理技術を駆使したシステムのほとんどは、情報処理技術を有する専門家でなくては実現ができないものである。このことは、観測機器開発や惑星探査技術と同じである。餅は餅屋、我々は情報通信技術者と協調することで、さまざまなブレークスルーを達成する可能性を高めることができると言うのが、筆者の考えである。そのためにも、我々は積極的に新しい情報通信技術を吸収し、宇宙科学分野を新しいパラダイムへと導くことを期待している。
2. Cyber Media Space
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Portable VR システム |
120 インチスクリーン |
50 インチデュアル液晶ディスプレー |
DBMS サーバ |
3D カメラ |
JGN2 ネットワーク |
講演卓(タッチパネル) |
液晶プロジェクタ型サインボード |
図2:愛媛大学 Cyber Media SpaceポータブルVRシステム用の
デュアルDLPプロジェクタ(左)と 120インチスクリーン(右)
図2は、このうちの、ポータブル VR システム用のデュアル DLP プロジェクタと 120 インチのスクリーンである。また、現在、Cyber Media Space で閲覧ができる 3D コンテンツは、表2 のとおりである。本稿では、図1 の Cyber Media Space のさまざまな機能のうち 3次元可視化に関連する機能を紹介する。
表2 Cyber Media Space 3Dコンテンツ
研究グループ
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3D コンテンツ
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データ形式
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総合情報メディアセンター | 宇宙プラズマシミュレーション |
GFA
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沿岸環境科学研究センター | インドシナ半島汚染調査 |
KML
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地球深部ダイナミクス研究センター | 地震波速度分布 |
GFA
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理工学研究科 | 等角写像による流れ場 |
GFA
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総合情報メディアセンター | 太陽地球系科学衛星観測 |
GFA
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2.2 スーパーコンピュータ
Cyber Media Space で閲覧する 3D コンテンツは、学外のスパコンで計算したシミュレーション結果、各種モデリングおよび数値計算結果、データ観測結果である。閲覧できるデータの一覧を、表2 に示す。KML は、Google Earth のデータフォーマットである。GFA については、後述する。この中でも、特に、宇宙プラズマシミュレーションは、MHD シミュレーション(Global MHD シミュレーションを含む)、ハイブリッドコードシミュレーション、電磁粒子シミュレーションなど、マクロスケールからミクロスケールまでさまざまなスケールでの結果である。
計算には、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の宇宙科学研究本部(ISAS)が所有する SX-6 をはじめとして、情報通信研究機構(NICT)の SX-6、京都大学、京都大学生存圏研究所(RISH)、名古屋大学が有する PrimePower HPC2500 を用いている。また、一部、地球シミュレータを用いたものもある。
計算結果の多くは、AVS 社の AVS Express/Dev または AVS Express/Viz により 3次元時系列可視化を行い、3次元時系列オブジェクトデータフォーマットのひとつである GFA 形式で出力している。特に筆者が最近精力的に可視化を行っている Global MHD シミュレーションは HDF5 フォーマットでデータを出力しており、AVS/Express との親和性がよい。
出力された GFA ファイルは、KGT 社がフリーウェアとして公開している 3D AVS Player により閲覧することができる。3D AVS Player は、Windows 上で動作し、GFA ファイルのプレビューを行うことができる。エンジン部は ActiveX コンポーネントとしても提供されるため、PowerPoint などに張り込むことも可能である。筆者は、学会等のプレゼンテーションでは、この機能を多用している。
図3:Global MHD シミュレーション結果(左)と衛星観測データ(右)の3次元可視化結果例
図4:Global MHD シミュレーション結果を2次元表示した例
図3は、GFA によるシミュレーションや観測データの 3次元可視化例である。図3 の左図は 3次元 Global MHD シミュレーションにおいて得られた磁気圏尾部を伝搬するプラズモイドである。特定の密度値で等値面表示を行った結果を尾部側から見ている。図4 に示される我々がこれまでに見慣れた 2次元表示によるプラズモイドと比較すると、プラズモイドの 3次元的形状が理解しやすいことがわかる。図3 の右図は、POLAR 衛星によるオーロラ可視光観測(VIZ)を3次元地球体にマッピングしたものである。このように3次元空間でマッピングすることにより、地球磁場との関係の理解などが容易になる。
(次号 に続く)
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