No.241
2001.4


ISASニュース 2001.4 No.241 

- Home page
- No.241 目次
- 日本の宇宙科学の新しい時代へ
- 特集に当たって
- 第1章
+ 第2章
- 第3章
- タイトルバックの出典について
- ミッション提案一覧表
- ミッション年表
- アンケート集計結果
- 編集後記

- BackNumber

小型衛星を使ったガンマ線ミッション


 宇宙の果てを見るのは,人類の大きな夢の一つです。それを実現するためには,その時代の人類の持ちうる最先端の技術をそそいで押し進めていくことが必要です。個人プレーが主体的であった天文学でも,巨大加速器とともに素粒子物理学が歩んできた道のりと同様に,数100人から1000人を超えるような規模の科学者が参加して行われるような巨大なミッションを真剣に議論する時代に来ているといえるのでしょう。こうした大きなプロジェクトも魅力的ですが,同時に小型であっても斬新なアイデアやこれまでに実現したことのないような独自の検出器技術を使って新しいフロンティアを切り開く努力も必要です。小型衛星のプロジェクトを効率良く行うことができれば,いろいろな新しいアイディアをもりこみ,大型ミッションとは一味違った,新しい魅力的なサイエンスを沢山行うことができるはずです。小型衛星で新しい方法が実証され,それがより大型のミッションへと展開していくことも当然期待できます。

 X線領域ではシリコンの検出器がよく使われますが,それよりさらに短波長の硬X線やガンマ線に対しては,シリコンはもはや透明になってしまいます。私たちは,新しい半導体素材を使って,極めて高いエネルギー分解能をもち,100ミクロンという位置分解能をもつ新しい硬X線・ガンマ線撮像素子の開発を進めています。この素子が実現すれば,これまで観測が進んでいなかった硬X線・ガンマ線領域で,様々なミッションを計画することができ,その中のいくつかは,小型の衛星でも十分に可能になります。

 10cm角位の大きさのシリコンストリップ検出器を上述のガンマ線素子と組み合わせ,全体で30層位積み重ねた多層の検出器を作ります。この検出器の概念は1988年ころに,日本で提案されたものですが,十分な性能を持つ素子が存在しなかったうえ,数万から数十万という沢山の独立した信号の読み出しとその処理が必要になるため,まだ実現していません。私たちは,加速器実験で開発されてきたような技術を応用して,その開発にとりくんでおり,ここ数年の間に小型のモデルを作ろうとしています。

 多層の検出器の中で,ガンマ線が複数回反応を起こしたような事象を使うと,ガンマ線の到来方向や,偏光を知ることができます(多重コンプトン法)。非常に広い視野を持ち,100―300keV位のエネルギー範囲によい感度を持つため,実は,この検出器は,謎の「ガンマ線バースト」の偏光を測るのに最適なのです。ガンマ線バーストは,150keV位で放出エネルギーがピークを持ち,バーストの瞬間は全天で一番明るくなるような天体現象で,その正体を探ることは,21世紀の高エネルギー天体物理学の大きなテーマでもあります。ガンマ線バーストでは,何らかの理由で火の玉が作られ,それが爆発して,その中で粒子が高いエネルギーに加速され,それがガンマ線を出すというような事が言われていますが,まだ実態はわかっていません。とてつもなく明るい上,別の方法で,方向が求まるため,小型であっても十分な精度で「多重コンプトンカメラ」を用い,「コンプトン運動学」を解くことで,偏光を測定することができると考えられます。偏光は,物理過程を強く反映するため,ガンマ線バーストの謎を解くうえで,この小型衛星ミッションの果たす役割はとても大きいはずです。

(高橋忠幸(宇宙研),釜江常好(広島大学,スタンフォード大学線形加速器センター)) 


#
目次
#
第2章 目次
#
小型衛星による
近赤外宇宙背景放射光の
揺らぎの観測
#
Home page

ISASニュース No.241 (無断転載不可)