No.206
1998.5

ISASニュース 1998.5 No.206

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大気球が翔ぶ三陸

山川 健

 私の住んでいます大船渡市は岩手県の沿岸の南部にある東北では珍しく温暖な所です。暦の上の寒中に雨が降り,ヤブツバキが赤い五弁の花を咲かせます。文部省宇宙科学研究所の三陸大気球観測所のある三陸町は北隣の町です。三陸町には私たちには珍しい地名が数多くあります。その中から拾ってみました。千歳,根白,越喜来,綾里。順番に読みますと「せんざい」「こんぱく」「おきらい」「りょうり」といった読みになっています。アイヌ語にその地名語源を追った著書がありました。岩手県久慈市出身の吉田耕一郎著の「岩手の古地名集」です。千歳(chep-ta-usi)「鮭が郡来する所」,根白(kompu-an-ke)「コンブのある所」,越喜来(okes-ra-i)「山裾の低い所」,綾里(ri-or-ru)「高台から浜降りの路のある所」と解いています。  三陸沿岸はご存じのようにリアス式海岸で知られ,地名の語源が物語るように変化に富んだ沿岸は国立公園になっています。しかしこのリアス式海岸の字型や字型の湾が仇となり沿岸は過去に何度も大津波に襲われて来ました。死者,行方不明者が二万二千人余りを数えた1896年の明治三陸大津波の時,綾里の白浜で駆け上がった津波の高さは38.2mにもなったと言われています。1933年の昭和三陸津波でも白浜で23mの波高を記録し「TUNAMI」を国際語にしてしまいました。この津波も沿岸では今,忘れられた頃の災害になって来ました。

 沿岸に点在する定置漁場では今が本格的な春漁シーズンで,主にマス類が網にかかっています。この地方で「サクラマス」と呼んでいるのは実は和名が「カラフトマス」です。そして和名が「サクラマス」,つまり本当の「サクラマス」を「ママス」と呼んでいます。「カラフトマス」はちょうどサクラの季節が一番の漁期ということでその名が付いたようです。この他面白い名前では「エゾイソアイナメ」が「ドンコ」,「スケトウタラ」を「キツネタラ」,「アイナメ」を「ネウ」などむしろ親しみを覚える名が付いています。

 三陸大気球観測所から放球される大気球は,この沿岸に機影を写しながら上昇して行きます。
 長時間観測のブーメラン気球,長距離飛行が得意な衛星リレー気球,極付けは高高度気球。97月に放球した高高度気球は結局50.22kmまで上昇する新記録になり,私も皆さんの喜びをカメラに収めることが出来ました。おかげで高高度気球の高度記録はNHKの全国ニュースで放映し国際ニュースとして海外にも流させて貰いました。

 小型ロケットの領域の観測に道を開いたこの気球は,新しい大気球観測の幕開けを感じさせてくれました。私が大気球の取材を始めたのは,もう20年以上も前になります。その頃「白鳥座X線星」がブラックホールの可能性が強いという話を聞き驚いたものでした。私にとってブラックホールはそれまで童話の世界の話でしかなかったからです。

 私はもともと宮沢賢治の童話の世界に出て来る星座の話が好きでした。
 「天の川の西の岸に,すぎなの胞子ほどの小さな二つの星が見えます」と書き出している,ご存じの「双子の星」チュンセ童子とポウセ童子が,一晩中銀笛を吹く。その曲が宮沢賢治作詞,作曲の「星めぐりの歌」です。
 放球され力強く舞い揚がる大気球が,目当ての星を求めて上昇を始めますとついこの「星めぐりの歌」を口ずさみたくなるから不思議です。

  あかいめだまのさそり  ひろげたわしのつばさ
  あおいめだまのこいぬ  ひかりのへびのどくろ
  オリオンは高くうたひ  つゆとしもとをおとす

 また宜しくお願いします。

(NHK釜石通信部 やまかわ・けん)


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