No.206
1998.5

ISASニュース 1998.5 No.206

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「Fat Free, Low Price, Saving」

   久保田 孝


 文部省在外研究員として,1997月より年間,米国NASA/ジェット推進研究所(JPL)に,VisitingScientist として滞在した。研究テーマは「惑星探査のための宇宙ロボティクス」で,私は火星探査ローバの研究グループの一員となった。折しも,その年の夏に火星探査機「Mars Pathfinder」の着陸が予定されていて,スタッフの緊張と興奮が伝わってきた。Mars Pathfinder は,NASAのディスカバリ計画のつであり,小型軽量,低コスト,短期開発の探査機を方針としている。探査機は,米国独立記念日の日に火星赤道付近のアレス峡谷にみごと軟着陸に成功し,ソジャーナと呼ばれる移動探査車が着陸機の周囲を走行し,火星表面の画像をたくさん地球に送信した。着陸の日には,JPL内にはいくつもの部屋が用意され,報道陣だけではなく,プロジェクトにかかわった人の家族も招待され着陸成功の喜びを分かち合った。とても米国らしい光景であった。また着陸の様子は,インターネットやNASAテレビを通じてリアルタイムに全米に報道された。JPLのあるパサデナでは,米国惑星協会主催の Planetfest'97 が同時期に開催され,宇宙研共催の Water Rocket をはじめ,シンポジウムや展示など数多くのイベントが行われ,火星着陸の瞬間には数千人の人が感動と興奮で大スクリーンに釘付けになった。その見せ方のうまさとその奥にある自信は大したものである。子どもに夢を与え,国民の理解を得ながら,ミッションを遂行する強い姿勢がうかがえた。1997年はJPLにとっていくつかのビッグイベントがあり,火星着陸のほかに,Mars Global Surveyor の火星到着,エアロブレーキ技術による軌道修正,土星探査機 Cassini の打上げなどがあった。このような機会にJPLに滞在し,肌でその興奮を感じることができ,またミッションに携わった人と知り合いになることができ,大変幸運であった。

 さて暮らしについて触れると,ひとくちでいって生活しやすい。エルニーニョの影響で,気温35度を超す日が何日もあったが,湿気が少なくて過ごしやすかった。米国の朝は早い。まだ暗い午前時前から道路が渋滞する。朝時から仕事をして夕方時前には帰宅する。仕事の効率が非常にいいのであろう。夏時間では夜時過ぎまで明るいので,スポーツなどでプライベートの時間をエンジョイできる。非常に健康的である。夕食は家族と一緒にとり,家族の団らんを楽しむ。中には夜遅く,自分の部屋でインターネット経由で仕事をする人もいるらしい。住宅事情と電話料金システムのなせる技であろう。なにしろ市内は何時間かけても同じ料金なのだから。物価はそれほど変わらないと思うが,量に対しては非常にお得である。米国のスーパマーケットはおすすめの観光スポットの一つである。種類も数も豊富で,しかも安い。見ているだけでも楽しい。量り売りはいいシステムである。必要な分だけを買うことができる。中には清算前に並びながら果物やパンを食べはじめてしまう人もいる。でも客はもちろんのこと店員も気にする様子はない。不思議である。おおらかというべきか。First In, First Serve も徹底している。順番がくるまで,長い行列を気長に待っている。せっかちは禁物である。

 米国人は健康によく気を遣う。暇さえあれば体を鍛えている。TVではよくエアロビクスが放映される。食べ物も自然食品や健康食品をよく見かける。ビタマニアという栄養剤の店もたくさんある。Low Fat, Fat Free, Diet などという言葉に弱いようだ。そんなに気を遣っていながら,ハンバーガやポテトチップを好んで食べる。米国文化なのであろう。新聞は街の自販機で購入できるが,日曜日は早々に売り切れる。日曜の新聞に限って広告で割引クーポンがついているからである。Saving という言葉も好んでつかわれている。

 宇宙分野では,最近特に,小型軽量・低コスト・短期開発で,より成果が得られることが期待されている。日常生活と通じるものがあるようだ。

(くぼた・たかし)


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