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宇宙に羽ばたいたX線天文衛星「すざく」


 我が国5番目のX線天文衛星「すざく」は,2005年7月10日12時30分(日本時間),M-V-6号機により,JAXA内之浦宇宙空間観測所より打ち上げられた(『ISASニュース』7月号掲載の森田実験主任による打上げ成功の記事参照)。「すざく」は当初,近地点約250km,遠地点約560kmの楕円軌道に投入されたが,その後,衛星搭載二次推進系により近地点高度を徐々に上げ,7月21日には高度約570kmの円軌道が達成された。その間,太陽電池パドルの展開,X線望遠鏡光学ベンチの伸展も無事行われた。そして,衛星の姿勢制御系の立ち上げ・調整や,観測各装置の立ち上げが順次進められた。

 「すざく」には,X線反射望遠鏡(XRT)が5台搭載され,それらのうち4台の焦点面にはX線CCDカメラ(XIS)が,1台の焦点面にはX線マイクロカロリメータ(XRS)が置かれている。XRSは,X線入射に伴う素子の微弱な温度上昇により入射X線のエネルギーを精度よく測定するため新しく開発された装置で,画期的に優れたX線分光能力を持つ。これらの観測装置は,およそ0.3keVから10keVのエネルギー領域のX線を観測する。また,これらと同時に,各X線源からの硬X線(およそ10keVから700keVのエネルギー領域)をこれまでにない感度で観測する,硬X線検出器(HXD)が搭載されている。

 XRS装置は,絶対温度60ミリ度(摂氏マイナス273.09度)で動作させる検出器を断熱消磁型冷凍機で冷却し,その外側を絶対温度約1.3度の液体ヘリウムのタンクが取り巻き,そのさらに外側を絶対温度約17度の固体ネオンが取り巻く構造になっている。打上げ以来,冷却装置の立ち上げは順調に行われ,7月27日には,検出器を絶対温度60ミリ度に冷却することに成功した。これは,宇宙空間で人工的に作り出した世界で最も低い温度であった。そしてその後,XRS装置に装着されたX線源により,XRSが予期した通りのX線分光性能を示していることが確認された。しかし,X線天体を観測するための準備に取り掛かっていた8月8日,XRSのヘリウムタンクの温度が上昇し,液体ヘリウムが一気に気化してすべて失われる事態が生じた。この時点で,残念ながらXRSによる観測は不可能となった。この不具合の原因は調査中であり,最終的にはJAXAとして設置されたXRS不具合原因究明チームによる結論を待つことになる。

 「すざく」は,XRSの観測能力を失ったが,その後,8月12日から13日にかけての運用で,二つ目の観測機器である4台のX線CCDカメラ(XIS)のX線入射部のカバーを開いた。その結果,小マゼラン星雲にある超新星残骸(星の爆発のあと)の観測に成功した(図参照)。この観測の結果には,これまで見えにくかった酸素の出す特定の波長のX線がはっきり示されており,XISが世界最高の性能を持っていることが示された。

 「すざく」は,さらに,三つ目の観測機器である硬X線検出器(HXD)の立ち上げを行い,8月19日には,距離1500万光年にある楕円銀河「ケンタウルス座A」から信号を検出することに成功した。ケンタウルス座Aの中心には,太陽の数千万倍の質量を持つ巨大ブラックホールが潜んでいると考えられ,そこにブラックホール周辺のガスが吸い込まれる際に,光,X線,ガンマ線などが強く放射されると考えられている。HXDは,それらの硬X線やガンマ線を精度よく検知しており,この領域での感度が世界最高レベルであることを示した。

 XIS,HXDが予定通りの性能を示したことにより,「すざく」は,低エネルギー域を受け持つシステム(XRT+XIS)と,高エネルギー域を受け持つHXDという2組の装置を擁し,非常に広いエネルギー範囲で観測を行える世界で唯一の高エネルギー天文衛星として姿を整えた。今後は全世界の研究者の利用により,大きな科学的成果を挙げることが期待される。

 最後に,「すざく」がここまで来られたことに対し,ASTRO-EII計画の立ち上げや,ASTRO-E,ASTRO-EII計画の遂行,M-V-6号機の打上げ(4号機のご苦労も含め),「すざく」の初期運用などでお世話になった多くの方々に,この場を借りて,厚くお礼を申し上げます。


「すざく」搭載X線CCDカメラ(XIS)がファーストライトで得た,
小マゼラン星雲中の超新星残骸からのX線像。

(井上 一) 


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