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InFOCμS硬X線望遠鏡気球実験

InFOCμS硬X線望遠鏡気球実験の様子


 「あすか」衛星など,これまでのX線天文衛星は,10keV以下の軟X線反射望遠鏡を搭載し,世界の天文学にとって重要な発見を重ねてきた。この軟X線領域では,熱的な放射が大勢を占めていた。ところが宇宙では密度が低く,衝突平衡に至る前に加速が進むと,粒子は高いエネルギーまでべき型のスペクトルを持つため,20keV以上で優勢な放射となる。この加速の過程そのものは,地球周辺のプラズマ領域などとも共通する,宇宙物理学の基礎過程である。

 しかし,10keV以上の硬X線は十分に反射されず,望遠鏡ができなかった。一方,重/軽,2種の金属をナノメータスケールで積層する多層膜を創成すると,各界面で反射された波面がそろった場合,高い反射率が得られる。しかも,周期長を表層から基板まで徐々に変化させたSupermirrorでは,広い波長域で高い反射率を得られる。我々は白金/炭素を周期長,数ナノメータで20-100層積層し,入射角0.1-0.3度で20-60keVまで反射させることに成功した。

 「あすか」,ASTRO-EU用の高効率望遠鏡の反射鏡にこれらを成膜(レプリカ)することで,硬X線望遠鏡を作り上げている。しかし,入射角を0.3度以下にしているため,口径40cmの望遠鏡1台に2000枚の反射鏡を同心円状に配置している。名古屋大学ではNASAゴダード研究所と協力し,実験室でその量産を進めてきた。

 これまでの軟X線に比べ透過力の高い25keV以上の硬X線は,40kmの高度に気球で上がれば観測が可能になる。我々は,1996年からNASAゴダードのガンマ線グループと共同気球実験InFOCμSプロジェクトを立ち上げ,名大がNASA/GSFCのX線グループとともに硬X線望遠鏡を製作,焦点面検出器,ゴンドラをNASA/GSFCが製作した。望遠鏡は口径40cm,焦点距離8mのものを1台搭載した。焦点面にはCdZnTeのピクセル検出器を置いた。姿勢は,仰角,方位角を制御する経緯台方式を用いた。

 2001年7月5日,米国テキサス州のPalestineから第1回目の飛翔を行った。8mの光学台の初めての制御のため,7時間ほどの飛翔の最後の方で2〜3分間だけ白鳥座X-1を視野にとらえ,100カウントほどで撮像集光性能だけは確認できた。

 2004年5月31日,米国ニューメキシコ州のFort Sumnerから第2回の飛翔を行った。前回から望遠鏡の改良,検出器の改善を進めた上での実験であったが,仰角制御が動かず,ついに天体を見ることなく地上回収された。しかも回収時に岩山に激突し,装置に大きな損害が出た。

 2004年9月16日,同じくFort Sumnerから第3回の飛翔実験を行った。前回の損傷はスペア部品で急きょ補修した。名大からは小賀坂,柴田,田村,吉澤,そしてGSFCの岡島の5人の若手が参加し,活躍した。打上げの数時間後から,A2142,ヘラクレス座X-1,NGC6240,白鳥座X-1,4U0115のポインティングを行った。姿勢が落ち着いていた3天体についてはすでに像も確実に得られ,パルサーからは周期も確認された。現在,すべてのデータについて詳細な解析が進められている。

 今回の観測は,世界で最初の本格的な硬X線撮像望遠鏡による天体観測である。我々は,今後もなるべく多くの機会を通じ,硬X線撮像観測実験を進め,硬X線撮像観測技術とともに,硬X線領域の天文学を確立していきたい。その一環として,我々自身の手ですべてのシステムを作るNUSMIT実験をブラジルで行おうと計画している。さらに,この研究は,2011年度打上げを提案している次期X線天文衛星計画NeXTに直接つながるものであり,その先は2015〜17年ごろ打上げ目標の国際共同計画XEUSに展開したいと考えている。

(國枝 秀世) 


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宇宙学校・帯広



 今年度は宇宙学校を3回,帯広,倉敷,東京で行うことになっていますが,帯広はその初回を飾るものでした。

 ここしばらくは,3時限の「QアンドA」と映画のセットでしたが,今年度は「タウンミーティング」という新しい試みを始めました。

 「タウンミーティング」,市民と語り合うというものです。JAXAでは,宇宙飛行士のいるところでタウンミーティングを始めましたが,宇宙科学研究本部では初めてです。この試みを入れるために,3時限の「QアンドA」を2時限としました。今まで宇宙学校は,講演から「QアンドA」へと変化してきたわけですが,ここでさらに市民とのやりとりを進めるものになったわけです。

 市民との対話を意識したポスターは,講師でもあった黒谷さんがデザインしました。北海道の野原に動物たちと子供たちが集まり,空にはRVT(再使用ロケット)がホバーリングしています。黒谷さんは,この季節の原っぱの色,山の雪などについても工夫を凝らしておりました。前日,帯広十勝空港に降り立つ機中から地上を眺めた筆者は,「あ,黒谷さんの絵のとおりだ!」と,納得したものです。

 会場は,駅すぐそばのとかちプラザ・レインボーホール。

 「ネクタイはずしてリラックスしていこう」と提案した的川さんが校長先生。最初のあいさつは,成田に着陸後そのまま羽田から帯広入りの鶴田本部長,そして,帯広市長。

 1時限目は,「はやぶさ」と電気推進の話をした矢野さんと清水さんペアーが講師でした。2時限目は,太陽系外惑星と宇宙生命の話をした村上さんと黒谷さんペアー。

 それから,「M-V宇宙(そら)へ」の映画上映,48分間。

 そしていよいよ,2時間にわたるタウンミーティング。司会は平林で,終始,市民の座るフロアで前の方に立ちました。初めに15分ほど,一般的な宇宙の話をしました。大きな宇宙のこと,宇宙が始まったこと,銀河や星ができてきたこと,わたしたちがこうして存在すること,そして,広い宇宙をわたしたちが飛行を続けていること。

 それから,鶴田本部長,的川校長と4人の講師が,机なしで壇上から市民と向かい合うという場面設定にしました。壇はそれほど高くないので,緩やかな階段状のレインボーホールで,互いの目線の高さは適正と思われました。

 まずは会場からの発言を求めました。それから,次第にさまざまなトピックの塊に変化していくことができました。会場に発言がなくて天使が通ることはありませんでした。そうして,いい雰囲気で2時間が終わりました。

 終了後,打上げ懇親会をしました。帯広市長さんも,近くの大樹町の町長さんも出席されました。

 これからは,宇宙学校をもっといいものにするための,独断偏見混じる反省,提言です。


●「QアンドA」


 講師が最初に10分ほど話すことになっていましたが,実際は20分ほどで,講師が2人ですから40分近くを費やしてしまいました。その結果,1時限あたりに受けた質問は10個ほどにとどまりした。講師は手短に要領よく楽しく答える必要があります。もっと質問が飛び交い,やりとりが飛び交うのが好ましいと思います。また,目線を低く,しかも的を射た回答には,高い研究者の質が問われます。


●「タウンミーティング」


 いろいろな問題を含んでいます。意義,目的,重要性は? 論ずべき中身は? 大人が対象,あるいは子供? しばらく試行しながら考えていく必要があるでしょう。

 「タウンミーティング」という,他所から持ってきた横文字名に微かな抵抗感があります。また,地方にはなじみません。固有のいい名前が欲しいところです。最終便で羽田に向かう機中,ふっと名前が浮かびました。

 「歌垣」。古来,特別の日に,山や市に集まって遊び,歌い,踊り,男女は心を交わした機会。より優雅には,宮中での多数の男女の雅な歌舞の一つと聞きます。「友垣」という麗しい言葉もありますね。いずれも,垣を結ぶ絆からきているようです。

 これは,タウンミーティングの「心を許して語り合う」に近いものですね。宇宙をテーマに宇宙の場で語り合う。それは,「宇宙垣」ではないかと思えたのです。「うちゅがき」と読むと,音は歌垣に近いのですが,真夏の公開日に配った「宇宙わ」の駄洒落世界ですね。それよりは,開放的で綺麗な発音,「そらがき」がいいかなと考えました。宝塚「宇宙(そら)組」の例もあります。

 電話で的川さんに話すと,「ああ,いいかもしれないねぇ」という「うわの空」の返事でした。「類〔音〕語に「そばがき」がありますね。そば粉をこねただけの正直で素朴な味,これもタウンミーティングみたいじゃないですかぁ?」と,迫る筆者。「つるし柿」も食べられますが,これは「JAXA,しっかりしろいっ!」と,市民につるし上げられるとき。

 それはともかく,何か考えましょう。

(平林 久) 


「みんなで語る」3時限目の情景
(壇上向かって左よりM,T,M,K,S,Y諸氏)
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