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X 線天文衛星の開発・観測をされているそうですね。
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藤本: |
初めて開発に携わったのが1993年打上げの「あすか」です。この仕事は面白い。ワクワクしながらやっています。だからこそ,1999年のASTRO-Eの失敗は,非常にショックでした。私たちの仕事は,衛星を作って終わりではありません。衛星を作って,ロケットで打ち上げて,それを使って観測する。そこからが本当の始まりなんです。たくさんの人が何年もかけて準備をしてきたのに,“始まり”にたどり着けなかったわけですから。
幸い,多くの方にご協力いただいてASTRO-EIIとして復活し,2005年初めの打上げを目指して準備を進めているところです。
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ASTRO-EIIはどのような衛星でしょうか。
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藤本: |
ASTRO-EIIには望遠鏡と検出器が3種類搭載されます。X線は,1000万度から1億度の非常に高温の天体から出ます。宇宙は冷たいというイメージを持っているかもしれませんが,超高温の天体もあるのです。X線を観測することで,激しい宇宙の姿が見えてきます。
私は,XRS(X-Ray Spectrometer)というX線分光検出器の開発を担当しています。「分光」といって,X線を波長ごとに分けて観測することで,天体の温度や密度,運動など,物理的な状態を詳しく知ることができます。分光の精度は,「あすか」に搭載されたX線検出器の10倍になる予定でしたが,この5年間の技術進歩によって,さらに2倍も向上させることができました。もちろん世界最高精度です。
「あすか」などの観測によって,たくさんの銀河が集まった銀河団は高温のガスに包まれており,銀河団同士は衝突・合体を繰り返しながら進化してきたらしいことが分かってきました。XRSによる高精度の分光観測によって,高温ガスの運動が詳しく分かりますから,二つの銀河団が衝突しつつある姿も見えてくるでしょう。
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X線天文学は日本のお家芸ともいわれ,特に分光は強いですね。
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藤本: |
はい。日本は,1983年に打ち上げられた「てんま」の時代から分光に重点を置いてきました。今回のXRSは精度だけでなく,従来の検出器とはまったく違う原理を使っている点でも注目されています。従来の検出器は,宇宙からのX線を物体に吸収させたときに発生する電子の数(電荷量)を測っていました。XRSでは,温度の上昇を測るのです。3mm角の小さな検出器を絶対温度0.06度という極低温にしておきます。そこにX線が飛び込んでくると,わずかに温度が上がる。X線の波長によって持っているエネルギーが違い,温度の上がり方が変わります。温度を正確に測ることで,波長を測定できるのです。熱量を測ること,また素子がとても小さいことから「マイクロカロリメータ」といいます。
XRSの開発は日米共同で行い,検出器はアメリカが担当しています。ASTRO-Eの開発が始まった当時,マイクロカロリメータを作れるのはNASAだけでしたから。日本は検出器を極低温に冷却するための冷凍機の開発を担当しています。
ASTRO-EIIの次に計画されているX線天文衛星NeXTには,ぜひ自前で作った検出器を載せたいですね。すでに新しいタイプの検出器の開発を進めています。
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どのような検出器になるのでしょうか。
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藤本: |
XRSの精度はもう極限に近いところまできていますから,私たちが狙っているのは大きさです。3mm角というのは,必ずしも十分ではない。点に見えるような天体には威力を発揮しますが,薄く大きく広がった天体の観測は苦手です。NeXTでは,精度を何とか2倍に上げ,検出器の面積を1桁大きくしたいですね。
最近,銀河団で大規模な粒子加速が起きていることを示す観測結果が得られてきています。NeXTであれば,まさに粒子が加速されていく様子をとらえることができると思います。NeXTを2010年ころに実現して,新たな宇宙像を切り開いていければと考えています。
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研究以外ではどのようなことに興味をお持ちですか。
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藤本: |
それが問題なんです(笑)。実は,衛星の製作や研究がとても面白いこともあって,ほかのことをしている時間はほとんどありません。歴史小説を読むくらいですね。天文学は,宇宙がはじまってから現在に至るまでの宇宙の歴史を解き明かそうとしている。「歩みを知りたい」ということでは,歴史小説も天文学も同じで面白いですよ。ただ,今はやはりASTRO-EIIですね。
XRSで観測した分光のデータは,ハッブル宇宙望遠鏡のきれいな画像と比べて一般の人には分かりにくいのがつらいところですが,でも,とにかくすごい成果が絶対に出る。今まで誰も見ていない宇宙の姿が見えてきます。皆さんも,ぜひ楽しみにしていてください。
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