No.280
2004.7

ISASニュース 2004.7 No.280

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第10回

ベピ・コロンボに衝撃波がやってくる

東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻 
星 野 真 弘 



 最近の宇宙研の科学衛星計画では「粒子加速」という言葉をよく耳にするようになってきましたが,実際,X線天文,電波天文,太陽物理,太陽系プラズマなどの衛星計画書では,「粒子加速の現場を押さえ,さまざまな宇宙階層でのダイナミックな構造や進化を探る」というようなフレーズが目に入ります。今回はこの粒子加速を担うメカニズムの中で一番大切であると考えられている「衝撃波」についてのお話です。


粒子は衝撃波で加速される

 宇宙で起きる衝撃波も,地上で音速を超えて運動する物体(障害物)の周りにできる衝撃波も同じで,冷たいガスが衝撃波を横切ると粒子がランダムな運動になり,ガスは高温になります。しかし両者で異なるのは,非常に希薄なガスから成る天体衝撃波では,粒子同士が衝突することは非常にまれであり,粒子がランダムな運動になり熱エネルギーを得るのは,「プラズマ波動」を介して行われる点です。そして,粒子間の衝突が少ないことが幸いして,一部の粒子は非常に高温まで加速され,「非熱的」プラズマを作ります。非熱的プラズマは,粒子数は少ないのですがエネルギーが非常に高いため,もし熱的プラズマの持つエネルギーと同程度になると,高エネルギー粒子はさまざまな領域でのダイナミックスに重要な役割を担います。

 それでは,どのようなときに非熱的プラズマが効率よく生成されるのでしょうか。衝撃波を特徴付けるパラメターのうち最も大切なのは,「音速」に対するガス速度の比として定義される「マッハ数」ですが,大ざっぱにはマッハ数が大きな衝撃波ほどプラズマ加熱は顕著になってきます。しかし,熱的プラズマに対してどの程度,非熱的プラズマが生成されるかは,残念ながらいまだ解けていない問題です。非熱的プラズマの生成は,複雑なプラズマ波動の励起に左右されているため極度に非線形の問題であり,また電子とプロトンとでは加速効率が異なる方が一般的であり,厄介な問題です。

 問題解決には,プラズマ粒子観測と波動観測ができる太陽系内の衝撃波から手掛かりを得るのが得策だと思われますが,これまでの観測からでは,どのような条件が整えば高エネルギー粒子が作られるのか,いまだ分かっていません。太陽系内の衝撃波は,効率よく非熱的粒子を作っている天体衝撃波と比べるとマッハ数が小さいためか,我々の理解はいまだ何か欠けているように思います。


高速の惑星間衝撃波(IPS)をとらえる

図1 水星の磁気圏と惑星間衝撃波の模式図(C)ESA and NASA


 さて,この問題解決に向けて,BepiColombo(ベピコロンボ)計画の水星軌道での衝撃波観測はとても大切です。太陽面での爆発現象(太陽フレア)に伴ってコロナから多量のガスが噴出し,その先端では衝撃波が作られます(図1)。惑星間空間を外へと向かって伝播する衝撃波速度は,地球軌道(1AU)で1000km/sを超えることもありますが,マッハ数にして10〜20程度です。しかし,この惑星間衝撃波(IPS;Interplanetary Shock)は,外に伝播するに従って減速しているので,もし,もっと太陽に近づいて観測することができれば,さらに高速の衝撃波が観測できることになります。例えば,図21972年に観測されたIPSで,伝播速度を縦軸に,太陽中心からの距離を横軸にプロットしたものです。水星軌道のやや内側の0.3AU以内では,4000km/sにも達しています。これは超新星爆発に伴う衝撃波速度と同程度です。ただし,惑星間空間では,太陽に近づくと惑星間磁場も強くなっていくので,マッハ数は大きくても40程度に抑えられますが,このようなIPSを観測することができれば,新たな粒子加速の知見が得られるものと思われます。

図2 1972年に観測された惑星間衝撃波。伝播速度を縦軸に,太陽中心からの距離を横軸にプロットしたもの(Smart & Shea, 1985)


 水星軌道でのIPSの観測は,これまで地球周りで観測されてきた衝撃波と天体衝撃波の間をつなぐ,大切なパラメター領域での観測となるでしょう。

(ほしの・まさひろ) 


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