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宇宙科学研究本部の発足に際して

宇宙科学研究本部長 鶴田 浩一郎  



宇宙航空研究開発機構,JAXAの誕生

鶴田浩一郎 宇宙科学研究本部長。相模原キャンパスの正門には「宇宙科学研究本部」の看板が掲げられた。


 去る10月1日に,わが国の宇宙開発の中核機関として独立行政法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA;Japan Aerospace Exploration Agency)が発足しや実用衛星開発で30年以上の実績を誇っており,つにまとまることで,現在考え得る最強の宇宙開発軍団が出現するはずである。事実,新しい機構の職員数は約1800人となり,数の上でも米国NASAの約1割,ヨーロッパのESAの約半分となる。その気になって頑張れば,たいていのことができる可能性のある組織が出現したわけである。

 JAXAの活動は,理事長の下に置かれたつの本部に分かれて行われる。ロケットの開発,打上げ,射場管理,衛星の追跡運用を一元的に担当する「宇宙基幹システム本部」,地球観測,通信・測位などの宇宙利用を主務とする「宇宙利用推進本部」,宇宙航空に関する先端・基盤技術の開発を担当する「総合技術研究本部」,宇宙科学の研究,大学院教育を担当する「宇宙科学研究本部」である。これら4本部の活動を円滑に進めるためにHQ(本社)が置かれ,共通の管理事務を行う。本部制を実のあるものにするために,各本部の役割を明確にし,それに応じた作業や人の再配置が行われた。例えば,これまで宇宙科学研究所で行われていたM-Vロケットの開発や打ち上げを,宇宙開発事業団のH-IIAロケットと同様に宇宙基幹システム本部に移し,宇宙開発事業団で行われていた宇宙環境利用の「科学」部分を宇宙科学研究本部に移すといったことが行われた。


宇宙科学研究本部に求められるもの

 私たちが属する宇宙科学研究本部は,このような位置付けで誕生した。本務は「大学との共同等による宇宙科学に関する学術研究」である。宇宙科学研究所が全国大学共同利用機関であったように,宇宙科学研究本部も大学との協力を行う仕組みが作り込まれている。理事長の下に置かれる宇宙科学評議会と,本部長の下に置かれる宇宙科学運営協議会である。前者は大学の学長等の有識者で構成され,本部長の推薦などを行う。後者は約半数がJAXA外の研究者から成り,宇宙科学研究本部の教育職の選考などを行う。ここで教育職に「 」が付いているのは,独立行政法人の職員であるが,教育公務員に準じた職務規定と俸給表を適用した職員という意味である。これは,大学との人事交流を円滑にするために採用されたものであると同時に,現在200人近く在籍している大学院学生の教育にも好都合である。また,これまで宇宙科学研究の質の向上に寄与してきた宇宙理学委員会,宇宙工学委員会もほぼ同じ位置付けで継承される。この統合を準備した宇宙機関統合準備会議で,注意深い制度設計がなされたおかげである。

 宇宙科学研究本部の業務は,文部科学大臣から提示される中期目標に示された「研究者の自主性を尊重した独創性の高い宇宙科学研究」と「衛星等の飛翔体を用いた宇宙科学プロジェクトの推進」のつである。前者は,研究者が個人あるいはグループを作って行う研究で,萌芽的な性格のものである。後者は,科学衛星プロジェクトに代表される研究で,衛星の開発からデータ解析,成果の公表までの一連の作業を含む活動である。これらは,宇宙科学研究所で行われてきた研究活動を大筋で踏襲したものとなっている。


過去2回の変革による大いなる発展

 日本の宇宙科学の仕組みは,これまでに2回大きな変革を経験した。最初は1964年の東京大学宇宙航空研究所の設立である。これによって宇宙科学推進の中核が形成されると同時に,初の人工衛星「おおすみ」の成功と,それに続く科学衛星の打ち上げによって宇宙科学発展の道を開いた。東大宇宙航空研究所は1981年,全国大学共同利用の宇宙科学研究所に生まれ変わった。宇宙科学研究所は,ハレー彗星探査を機に開発された名機M-3SII型ロケットによって「さきがけ」「すいせい」「ぎんが」「あけぼの」「ひてん」「ようこう」「あすか」を打ち上げ,国際舞台で高い評価を得ることになった。

 この時期における宇宙科学研究所の成功の要因はいろいろ考えられようが,私は大方の意見と同様,以下のものではなかったかと考えている。第一は,「ロケットから衛星まで」の開発をつの比較的小さな組織で一貫して行うことにあった。この過程で理学研究者と工学研究者の緊密な連携が生まれ,製造メーカーとの間にも目的を共有する連帯が生まれていった。また,M-3SII型ロケットで打ち上げられる衛星のサイズが,このような開発体制にマッチしていたともいえる。第二は,全国大学共同利用制度の採用である。大学の研究者が科学衛星プロジェクトに主体的に参加することにより,実質的なプロジェクト推進グループの規模は5倍から10倍に膨れ上がり,プロジェクトの推進力と活気のもととなっていた。


融合のエネルギーを活力に

 今回の機関統合は,先の2回の変革に比してはるかに大きな変化を,宇宙科学研究にもたらすことになるだろう。変化のエネルギーは,機関がこれまで培ってきた研究方法,開発方法などの「文化」の違いである。大げさに言えば「異文化との融合」エネルギーである。私のささやかな経験の中に,統合前に宇宙開発事業団と宇宙科学研究所の間で始めた,大型の月探査計画SELENEプロジェクトがある。このプロジェクトは,異文化を小出しにしながら,融合のエネルギーを活力に転化しつつ進んできた。今後は,大規模にこれが起きるだろう。「融合」エネルギーの制御と有効利用の方法を学び取る必要がある。

 統合がもたらすもう一つの側面は「規模のメリット」であろう。冒頭にも述べたように,新しい機構は宇宙航空のあらゆる分野の専門家を擁するわが国最大のテクノ集団を形成する。このテクノ集団が力量を上げていくことは,宇宙科学研究本部が行う科学衛星の能力アップにとっても極めて重要である。また,宇宙科学が要求するややエキセントリックな技術要求は,技術開発の刺激ともなる。間違っても狭いセクショナリズムに陥って「規模のデメリット」にならないよう注意が肝要だ。


宇宙科学に第三の飛躍を

 先にも述べたように,わが国の宇宙科学が経験した2回の組織変革は,宇宙科学に大きな飛躍をもたらした。1981年の宇宙科学研究所発足から今年で22年になる。M-3SII型ロケットに引き続き,惑星探査まで視野に入れたM-Vがすでに実用化されている。宇宙科学の研究分野も当時のX線天文学,太陽物理学,地球物理学の分野から,今では赤外線天文学,電波天文学,惑星科学,宇宙環境利用科学などを含む広い範囲の研究分野が,宇宙へのアクセスを求めている。年に一度の打ち上げでは,需要を賄いきれなくなりつつある。また,高度化する観測技術,探査技術もより広範なテクノ集団を必要とするようになってきた。そろそろ,組織変革を必要とする時期が近づいていたのかもしれない。今回の機関統合が宇宙科学に第三の飛躍をもたらす契機となり,JAXAの強固な組織に支えられた宇宙科学研究本部が,世界の宇宙科学研究のメッカとして活気に満ちた研究の場であり続けることを願って,拙文を終わりたい。

(つるだ・こういちろう) 


JAXAのパンフレット
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宇宙科学の新たな推進体制

  宇宙科学研究本部の新組織紹介

宇宙科学研究本部科学推進部長 中 島 節 夫  



 10月1日,大学共同利用機関として親しまれてきた宇宙科学研究所は,宇宙関係のほかの機関(宇宙開発事業団,航空宇宙技術研究所)と統合され,新たに独立行政法人 宇宙航空研究開発機構(Japan Aerospace Exploration Agency;JAXA)として発足した。また従来,宇宙科学研究所が担ってきた「宇宙科学に関する学術研究および大学院教育を核とする高度な研究人材養成」の機能は,「宇宙科学研究本部」という新組織に改編の上,相模原キャンパスに展開することとなった。

 さらに,円滑な統合効果を発揮していく観点から,これまで宇宙科学研究所の附属施設であった鹿児島宇宙空間観測所(内之浦)と臼田宇宙空間観測所は新機構の「宇宙基幹システム本部」へ,能代ロケット実験場は同じく「総合技術研究本部」へそれぞれ所属替えとなった。


JAXAの組織概要

 JAXAの組織概要を俯瞰してみる(図1)。

図1 宇宙航空研究開発機構の組織概要


 まず,理事長の経営・管理を支えるHQ(本社)機能として,「経営企画部」「産学官連携部」「広報部」「評価・監査室」「総務部」「人事部」「財務部」「契約部」「国際部」「セキュリティ統括室」などがある。また,機構の基幹的な研究開発などの中核的業務を行う組織として,「宇宙基幹システム本部」(ロケット・宇宙ステーションの開発・運用,追跡,衛星試験などを担当),「宇宙利用推進本部」(通信・測位,地球環境観測などのプログラム取りまとめ,利用促進などを担当),「総合技術研究本部」(先端的・基盤的技術研究,航空科学技術などを担当),「宇宙科学研究本部」(宇宙科学研究,大学院教育などを担当)の本部が置かれている。さらに,これらの研究開発業務に関して共通的な支援業務を行うものとして,「安全・信頼性管理部」「情報化推進部」「施設設備部」「周波数管理室」が置かれている。


宇宙科学研究本部の組織編成

 次に,宇宙科学研究本部の組織編成について概観してみる(図2)。

図2 宇宙研究本部の組織概要


 宇宙科学研究本部の使命は,従来の大学共同利用システムを継承し,大学との共同などによる宇宙科学に関する学術研究や大学の要請に応じた大学院教育への協力とともに,科学衛星をはじめとする各種宇宙科学プロジェクト推進などを行うことである。宇宙科学研究本部長は,このような重要な業務の総括責任者であることから,JAXAの理事として任命されている。

 大学共同利用システムを具体的に組織に反映するものとして,従来,大学共同利用機関として有していた評議員会と運営協議員会の機能を継承して,理事長の下に「宇宙科学評議会」(宇宙科学研究本部長の候補者を選考し,理事長に推薦[当該推薦に当たっては,宇宙科学運営協議会の意見を聞くものとされている]するとともに,必要に応じ,宇宙科学関連業務に関して助言)が,また本部長の下には「宇宙科学運営協議会」(当該本部に所属する科学研究および教育を行う研究者の候補者の選考,および宇宙科学関連業務に関する重要事項について本部長の諮問に応じる)が置かれている。

 本部長の補佐体制としては,従来置かれていた企画調整主幹に替えて,次のような職務内容を有する「企画連携総括」「研究総主幹」「宇宙科学プログラムディレクタ」の3名を配置し,機能的かつ迅速・的確な対応を図ることとしている。

企画連携総括……本部長を補佐し,その命を受け,本部における企画および機構内の連携を推進する。
研究総主幹……本部長を補佐し,その命を受け,研究系・大学院教育交流センターなどの指導,研究業務などの取りまとめを行う。
宇宙科学プログラムディレクタ……本部長を補佐し,その命を受け,宇宙科学プログラムに関する業務を総括する。

 これらの補佐体制は,その具体的内容にかんがみ,いずれのポストも教授が併任することとしている。

 次に,本部における共通業務支援などを行う「科学推進部」の体制について概観する。科学推進部は,単なる事務管理部門という位置付けでなく,本部予算の配算・資金計画管理,中期計画などの取りまとめ,産学官連携,共同利用研究,その他業務全般に関して,HQと緊密に連携しつつ本部業務の取りまとめを行うものである。その構成としては「庶務課」「国際学術課」「施設課」という業務全般の共通統括的部分と,「研究推進室」の「財務・マネジメント課」「研究マネジメント課」のように,中期経営計画,予算・資金管理,予算執行管理や共同利用,共同研究・受託研究,産学官連携という中核的業務の取りまとめの部分から成っている。

 なお,契約関係については,機構全体を通じて一元的に対応する必要があることから,HQの「契約部」に所属する「契約第課」が,宇宙科学研究本部の所在する相模原キャンパスに在勤するという形態を採っている。

 技術系の支援部局は,従来,観測部,技術部として位置付けられていたが,月探査にかかわる技術開発部分も加え,新たに「システム運用部」「技術開発部」「月探査技術開発室」として再編された。

 その他,機構全体を通じて大学院教育を推進する観点から「大学院教育交流センター」を新設するとともに,名称・内容などを見直して,「宇宙科学情報解析センター」「深宇宙探査センター」「大気球観測センター」などを設置した。

 以上,宇宙科学研究本部の新組織を概説してきた。従来,独立機関として存在していたときと比べて異なるのは,内外にわたるインターフェースがアウトソーシングされ,さまざまな制約条件下で十分とはいえないが,曲がりなりにも本来業務の重点化がより図られる体制となった点である。古来から「天の時は地の利にしかず,地の利は人の和にしかず」との名言があるが,まさに「生き生きとして躍動する職員のエナジーをいかに総合化・統合化するか」が新機関の試金石となろう(宇宙科学研究本部の英文名称は,従来と同じISASですので,関係者の皆様,今後ともよろしくお願い致します)。

(なかじま・せつお) 

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