No.265
2003.4

<研究紹介>   ISASニュース 2003.4 No.265

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系外地球型惑星の存在確率へ向けて


東京工業大学大学院理工学研究科 井 田 茂  


 1995年以来,100個を超える太陽系外の惑星(系外惑星)が発見された。これらは,惑星が公転することによる中心星の微妙なふれの観測とによって検出されたものである。現在の観測技術では太陽近傍の限られた恒星の巨大ガス惑星しか検出できないが,それでも,太陽のような単一星での検出確率は5〜10%にも達する。惑星系は原始惑星系円盤と呼ばれるガス円盤から生まれたと考えられている。星形成領域の電波観測により,原始惑星系円盤の質量分布などがわかっている。円盤という惑星形成の初期条件のデータと,惑星形成の終状態の系外惑星のデータをつなぐのは惑星形成理論である。現在,太陽系形成理論を発展的に解体し,様々な系外惑星系の形成を統一的に記述する理論の構築が進んでいる。この理論は,現状の観測では捕らえられない,系外惑星系の生命を湛える地球型惑星の予測をするものになるはずである。


1. 地球の形成

 地球は海を湛え,生命が居住している惑星である。このような生命居住可能な惑星は銀河系内にどれくらい存在しているのだろうか 地球は稀有な惑星なのか,それともありふれた惑星なのだろうか 天文観測探査によって地球のような生命居住可能惑星を捕らえることができる可能性はあるのだろうか

 そもそも地球がどのようにして,生命居住可能惑星となったのかを,振り返ってみよう。比較的多くの研究者に支持されているストーリーは以下のようなものである。

 地球は45〜46億年前に,微惑星と呼ばれる多数の小天体が衝突合体成長して誕生した。衝突に伴う発熱で,原始の地球はどろどろに熔けて,マグマの海に覆われていた。現在の地球は,鉄のコアのまわりに硅素化合物のマントルが取りまいている。この構造は,初期の熱い時代にできあがる。

 初期の地球は,微惑星衝突の際に脱ガスした,二酸化炭素の濃密な大気を持っていた。その濃密な大気による強い温室効果と,衝突に伴う発熱によって,水は蒸発していたはずだ。地球誕生後,数億年たって,微惑星衝突が収まってくると,少しずつ温度が下がりはじめる。大気中の水蒸気が凝結して,猛烈な雨が降りそそぐ時代を経て,海が形成される。当時の海は,高圧で濃密な大気のもと,かなりの高温だったはずである。そのような高温の海では,生命のもとになる高分子化合物は分解されやすかったと思われる。高分子化合物の合成には,一時的にエネルギーがれ(熱水噴出口などで)与えられた後に,分解されない低温環境に戻る必要があると思われる。

 その当時の主系列に入ったばかりの太陽は,現在の70%の明るさしかなく,この強い温室効果がなければ,微惑星衝突が収まると,地球の温度は下がりすぎて,海は凍結してしまったはずだ。

 地球内部の熱を外に出そうとして,マントルが流動を始める。マントル対流である。地表は内部にくらべると低温なので,マントル対流が地表に湧きだした部分は「硬く」なって,プレートが作られる。プレートはどんどん拡大し,プレート・テクトニクスが開始する。プレートが地球内部に沈みこむところで,大陸がだんだんと作られていく。大気中の二酸化炭素は海洋によって分解され,大陸やマントルにとりこまれ,大気はどんどん希薄になり,窒素が主成分となっていく。

 この,二酸化炭素の大幅な減少により,海は低温になり,生命の合成が進む。一方で,太陽は輝きを増していくので,海の凍結は避けられる。放射性元素の分析により,地球のコアは地球誕生後,数億年以内に形成されたと推測されている。コアの外層部分は液体状態にあり,地球の自転に伴う流体回転運動によって,地球磁場が形成された。この磁場は25〜30億年前には現在と同じくらいの強さになっていたということが,地質学的証拠によって示唆されている。地球に磁場ができると,それによって宇宙線や太陽風は遮断され,浅海は生命にとって安全地帯となる。太陽光が届く浅海に上がった微生物は次第に太陽光を生命活動のエネルギー源に使うようになり,光合成を始める。光合成により,酸素が放出され,オゾン層が形成され,完全に安全地帯となった地表に生命は上がり,酸素呼吸生命が誕生する。

 これが,地球の生命の誕生のあらすじである。このような生命居住可能惑星(ハビタブル・プラネット)はこの宇宙にどれだけの数が存在するのだろうか

 生命誕生の条件としては,惑星質量が大気を保持できる範囲にあること,中心星からの距離が適当で水が液体の状態にある温度範囲に入ることのほかにも,プレート・テクトニクスがおこる(陸上生命の誕生のためには磁場の発生も)条件も必要かもしれない。プレート・テクトニクスや磁場の条件も惑星の天体力学的条件で表すことができたなら,生命誕生の条件は惑星の質量や軌道半径といった,惑星形成理論が扱うことができる物理量で記述ができ,惑星形成理論が生命居住可能惑星の存在確率を記述できるようになるはずだ。

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2.系外惑星の発見

 この5年ほどで急速にこの問いの答えへの道が開けてきた。きっかけは系外惑星(太陽とは別の恒星のまわりをまわる惑星)の発見である。1995年にはじめて発見されて以来,系外惑星は次々と発見され,2003年現在,発見された数は100個をこえた。これらは,惑星が公転することによる中心星の微妙なふれを中心星のスペクトルのドップラー偏移により観測することによって検出された。間接的ではあるが,数々の検証をのりこえて,観測された中心星のスペクトルのドップラー偏移は惑星が公転するものであると証明された。

 現在の観測技術では太陽近傍の限られた恒星(数千個)でしか 観測できないので,100個というのは驚くべき多い数である。確率に直すと,太陽のような単一星で約5%で検出という確率になる。まだ確認はできていないが,惑星と疑わしきデータも含めると,観測対象の星のうち数十%もの星に惑星が存在している可能性がある。

 また,100個をこえる系外惑星のデータがあると,どのような惑星系がどれくらいの確率であるのかというような,統計的な議論も可能になり,理論モデルとの比較検証ができるようになる。

 惑星系は原始惑星系円盤と呼ばれるガス円盤から生まれたと考えられており,星形成領域(おうし座分子雲やオリオン座分子雲など)の電波観測により,そのような原始惑星系円盤は,生まれたばかりの星には普遍的に存在していることがわかっていて,円盤の質量分布もだいたいわかってきている。つまり,惑星形成の初期条件についても,惑星形成の終状態の系外惑星も観測データが揃ってきているのである。これらをつなぐのは惑星形成理論である。



3.惑星系形成理論の再構築

 観測された系外惑星は,中心星から0.05AU(AUは太陽と地球の距離で天文単位と呼ばれる)という至近距離の軌道上を数日という短時間で公転する木星大の巨大ガス惑星(ホット・ジュピター)や,大きく楕円に歪んだ軌道を持つ巨大ガス惑星(エキセントリック・プラネット)など,多様な姿を示している。

 現状では,惑星形成理論はこのような多様な系外惑星を統一的に説明できるほどの一般性を持つには至っていないが,惑星形成の初期状態と終状態の観測結果と比較しながらスクラップアンドビルドを重ねることによって,急速に惑星形成の統一的理論へと向かっていくことが期待される。つまり,原始惑星系円盤の質量(初期条件)が与えられると,理論によってその円盤のどの軌道半径にどのような惑星ができるのか(終状態)が与えられる。観測で明らかになっていく初期状態の分布と終状態の分布が理論とあっているのかを調べ,合わない分は理論にフィードバックをかけていくことによって, 統一的理論ができていく。

 現在の観測技術では,中心星を大きな速度でふらつかせることができる,木星のような巨大ガス惑星しか検出できていないので,理論と観測が比較できるのは,そのような巨大ガス惑星の軌道配置や質量の分布だ。しかし,それがかなりの精度で理論と観測で合うようになったならば,地球型惑星の存在の理論的予測もかなり信頼できるものとなる。

 筆者のグループでは,旧来の太陽系形成理論(7年前まではわれわれは太陽系しか惑星系を知らなかったのだから,惑星形成理論としては太陽系形成の理論しかなかった)を一般化する努力を続けている。たとえば,微惑星の合体成長のN体シミュレーション(全粒子の重力相互作用を入れて軌道積分していくシミュレーション)を,太陽系には相当しないような極端に大きな初期質量や極端に小さな初期質量をもった原始惑星系円盤の条件のもとでも行ない,どのような惑星系が生成されるのかを調べている。

 微惑星の合体成長の結果,(固体の)原始惑星が形成される。N体シミュレーションによって,どの軌道半径にどのような質量の原始惑星ができるのかがわかる。原始惑星の質量が地球質量の5〜10倍を越えると円盤ガスが原始惑星にとりこまれはじめ,木星や土星のような巨大ガス惑星が形成される。円盤ガスの流入速度は惑星質量の関数としてだいたい理論的にわかっている。一方,観測から,円盤は約1,000万年で消えていくことがわかっている。円盤がなくなればガス流入は終る。

 N体シミュレーション結果に以上のような惑星へのガス流入の効果も入れて,モデル化して,プロットした結果が図1である。x軸は中心星からの距離,y軸は円盤質量を表し,その質量の円盤の与えられた軌道半径で,どれくらいの質量の惑星ができるのかを z軸の高さおよびx-y面でのカラーコンターで表している。y軸は太陽系を作った円盤の推定値(太陽の質量の約100分の1)をとしてある。形成される惑星質量は地球質量(E)の何倍かを対数で表している。木星質量は地球の約318倍なので,この目盛では 2.5となる。つまり,2〜3の目盛を越える領域(カラーコンターで黄色っぽい部分)は木星のような巨大ガス惑星が形成される領域を表している(実際はこの領域内のとびとびの場所に形成される)。

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図1 N体シミュレーションによる,期待される惑星質量


 ある円盤における惑星質量の軌道半径依存性はある円盤質量(y軸の値)を固定して,x軸方向に横に見ていけばよい。たとえば,太陽系を作ったような質量の円盤(disk mass = 1)では, 数AU以内で比較的軽い地球型惑星,数AU以遠10AU以内で,木星や土星に対応するような巨大ガス惑星ができることがわかる。

 一般に中心星から遠いほど,ひとつの固体惑星に集積する微惑星の空間領域が広くなるので,大きな固体惑星ができやすい。また数AU以遠では,温度が低いため氷が凝縮し,固体物質が増えるために,さらに大きな固体惑星ができる。固体惑星の質量が地球質量の5〜10倍を越えると,ガス流入が始まって巨大ガス惑星が形成される。一方,中心星からあまりに遠いところでは,固体惑星の集積が遅く,固体惑星が大きくなったときには円盤ガスが消失してしまっているので,ガスをほとんど抱かない地球質量の10倍程度の氷惑星が作られる。これらは天王星や海王星に対応すると考えられる。

 また,数AU以内では水星(0.05ME)や火星(0.1ME)くらいの惑星はできるが,地球や金星(0.8ME)はできていないことがわかる。つまり,数AU以内では火星質量程度の原始惑星同士の衝突が,原始惑星形成後にやがておこって,地球が形成されたと推定される(図1ではそのような原始惑星形成後の軌道進化は考慮されていない)。そのような激しい原始惑星同士の衝突の破片から,地球には月が形成されたと考えられる。

 一方,太陽系を作った円盤より重い円盤では比較的内側領域から巨大ガス惑星がいくつも形成されることが予測されることがわかる。おそらく,このような惑星系が,ホット・ジュピターやエキセントリック・プラネットを抱く,太陽系型とは異なる惑星系になっていくのだろう。

 観測的に,円盤質量の分布がわかっているので(太陽系を作った円盤の1/10〜10倍に分布),ここの理論モデルを使うと,どういう惑星系がどれくらいの確率で存在しているかが,ある程度予想がつく。そのなかで巨大ガス惑星だけを取り出すと,観測による系外惑星の軌道や質量の確率分布と比較することができる。巨大ガス惑星について理論的予測が観測と合うようになるならば,地球型惑星についての理論的予測もある程度信頼できるものとなろう。



4.生命居住可能惑星へ

 このような研究によって,いろんな惑星系での地球型惑星の存在の理論的予測ができると,先に述べたような大気・海洋存在条件,生命生成環境条件をかませることにより,生命居住可能惑星がこの銀河系にどれくらいの確率で存在しているかを理論的に推定できるようになるはずだ。もしかしたら,陸上生命の生存に関わる気候安定性には,その地球型惑星の軌道離心率の大きさや自転軸の安定性(これには月の存在が大きく関わっている)の条件も関わるかもしれないが,これも惑星形成論が扱える範疇の問題である。

 現在の観測技術では他の惑星系の巨大ガス惑星は検出できても,地球型惑星の検出は難しい。したがって,上のように巨大ガス惑星の存在を通して理論的に推定するしかない。しかし,トランジットと呼ばれる恒星面惑星通過による恒星光度の周期的減少を測定する方法をつかって,衛星望遠鏡(数年内にフランスとアメリカが打ち上げ予定)で観測すれば,地球型惑星は検出されるのではないかと予想されている。恒星面惑星通過は惑星断面積できまり,ドップラー遷移は惑星質量で決まるので,小さな地球型惑星ではトランジットが有利だと考えられているからだ。また,影ではなく,地球型惑星の直接検出も,宇宙空間に巨大な電波望遠鏡を打ち上げれば,他の惑星系の地球型惑星の検出は原理的に可能である。直接検出では大気などの組成もわかり,オゾン層のようなバイオマーカーによって生命活動の有無もわかるのではないかと考えられている。現在,アメリカとヨーロッパでそのような衛星電波望遠鏡の打ち上げの本格的な検討が始まっている。日本でも同様の計画へ向けてのワーキンググループが始動している。

 他の惑星系の生命居住可能惑星を見つけるなどということは,十年前には全くの絵空事だったが,事態は急転し,近い内に見つかるのではないかという予測がされている。惑星系形成理論もそれにひきずられ,大きく変貌しようとしている。その波及は地球惑星科学だけでなく,天文学,生命科学へと広がっていくであろう。

(いだ・しげる) 


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