5月6日(月)から10日まで,ESTECと開催地ポルト(ポルトガル)の地元大学共催の第6回ヨーロッパ宇宙電源会議(ESPC)に参加した。1989年マドリードでの第1回開催以来ヨーロッパ勢の意欲は相変わらずで,議論よし,飲食よし等多彩である。
会議には(Participants Listによると)米露加印伯等を含めて219名が参加し,今回初めて中国からの参加が1名あった。という訳で文字通り世界中の宇宙電源関係者が一堂に会した国際会議と言えよう。なお,日本からは田島先生と筆者,豊田工大の山口先生他5名が参加した。発表論文は太陽電池(SC),バッテリー(BAT),電源システム等に関するもので,その総数は104件であった。これらはplenary sessionを含めた24のsessionに別れて発表された。発表は二つの会場を使って同時に進められたが,見聞した若干のトピックスを取り上げてみたい。
先ず「MUSES-C」で開発搭載されたLiイオン電池関係では,イギリスのAEAとフランスのSAFTの2社が活発な開発販売活動を展開しており,アメリカ勢を一歩リードしている感じである。前者は陽極に関するkey特許の使用をソニーに与え,公称容量1.5Ah,BATレベルでのspecific energy(SE)が100Ah/kg以上の‘Sony18650HC’を独占的に入手できる立場にある。この電池を搭載した既に打ち上げ済み又は今後打ち上げ予定の衛星・探査機ミッション数は24にも上るという(代表的なミッションには,LiイオンBATとして2000年11月に初の打ち上げとなったSTRV-1d,2003年6月打ち上げのMars Express,クラスターIIのようにNASAのnanosat(重量は10kg)編隊を形成するST5等がある)。この方式はセルの精密なロット受け入れ試験と全数スクリーニングによって,セルの特性を均一化し,バイパス回路等によるセルの故障防止を不要としているが,セル毎の過充電防止装置は必要だとしている。一方SAFTは公称40Ahの‘VES140’を開発しSEは126Wh/kgであるが,自己放電量が若干多いようだ(今回26Ahのセル開発の報告もあった)。しかし,これがBAT構成に必要な直列接続セル毎に異なると,セルの充電状態に差が生じBATの実効容量が低下することになる。このため,オンボードコンピュータを組み合わせたトランジスタと抵抗のみによる2種類の電圧差の解消法が提案されていた。
電源装置関係では,われわれも現在開発を手がけているので,ピークパワートラッカ(PPT)に関心があった。ESA加盟の15カ国では,恰も日本の衛星でのCI並みに開発が進んでいて,その精度は1%前後であった。ディジタル方式では,パワー取得に多数決冗長を採用しているが,外乱の点でこれまで問題がないようだ。
SCでは,GRCのDr. Baileyが,plenary sessionで次世代の候補として,例えば0.3AU以下のnear sun missionで高太陽強度,高温に適したSiC(700℃以上でも安定)を挙げていたのが注目される。
会期中,従来通り歓迎,ガラ,送別パーティが開かれ,ポルトガル発祥の地ギマランイスでの民族舞踊や独特の民謡ファド,ポルトのワインセラーでの(20度の)ポルトワイン攻めのディナーと地元の楽団演奏,フィナーレで参加者のほぼ全員を巻き込むダンスの数々が,ESPCでの緊張と疲労感を拭うにあまりあるものとなった。これには,ESTECの陽気なMrs. Sanchez初めMs. Hallman,Ms. Spaans等の方々の真摯な協力の賜物であろうと感謝申し上げたい。最期に,もともと大航海時代を偲ぶ観光は望むべくもなかったが,ポルトとリスボンのレストランでの魚料理の体験もなかなか捨てがたいものであった。
(たかはし・けいじ)